政府の地震調査委員会は2020年1月25日、南海トラフ地震に伴う津波の発生確率を公表しました。これまでは「最大で何メートルになるか」という規模の大きさに注目が集まりがちでしたが、今回は「小さくても高い確率で襲ってくるリスク」へ視点を移しています。行政や私たちが現実に即した備えを進められるよう、あえて発生確率に軸足を置いたデータが示されたのです。
地震調査委員会の平田直委員長は、途方もない最大想定への対応に苦慮する自治体が多い現状を指摘しています。その上で、まずは実行可能な対策から着実に進めてほしいと呼びかけました。この発表を受けてSNS上では、「これなら具体的な避難計画が立てやすい」「莫大な費用がかかる防潮堤より、今すぐできる避難訓練に力を入れたい」といった、前向きに受け止める声が数多く寄せられています。
今回の発表では、高知県高知市や三重県大紀町など約30の自治体において、5メートル以上の津波が押し寄せる確率が26パーセント以上あると判明しました。さらに高知県黒潮町や静岡県沼津市など約20の自治体では、10メートル以上の津波に見舞われる確率が6パーセント以上26パーセント未満と試算されています。これらの数値は、地域に暮らす人々にとって決して無視できない現実を突きつけているでしょう。
かつて2012年に内閣府が発表した推計では、黒潮町に国内最大となる34.4メートルの津波が押し寄せると想定されていました。今回のデータはそれよりも低い数値ですが、依然として甚大な被害をもたらすレベルです。一般的に3メートル以上の津波が来ると木造家屋は全壊や流出の恐れがあり、5メートルを超えると被害は一気に跳ね上がります。だからこそ、命を守るための現実的な行動が今まさに求められているのです。
完璧な防潮堤を築くには天文学的な予算と長い歳月が必要になりますが、確率が可視化されれば、どの地域から優先的に整備すべきか判断しやすくなります。企業にとっても、災害時の事業継続計画を意味する「BCP」を策定する上で大きなメリットとなるでしょう。工場の安全対策や、物流がストップした際の代替ルートの確保など、地に足の着いた実践的なビジネスプランを組み立てることが可能になります。
個人が避難行動を考える際にも、この具体的なデータは大きな手掛かりとなります。自分や家族の健康状態、あるいは昼夜といった時間帯を想定し、よりリアルな避難経路を検討できるからです。私は、こうした「100点満点の非現実的な対策」よりも「今できる最善の行動」を促すアプローチこそが、結果として多くの人命を救うことに繋がると確信しています。悲観するだけでなく、賢く備える姿勢が大切です。
一方で、最大想定そのものが修正されたわけではないため、原子力発電所の安全対策への直接的な影響は限定的とみられます。原子力規制庁の担当者は、南海トラフ地震が発生しても安全基準を満たすよう厳格に審査しているため問題はないと説明しました。SNSでは「本当に大丈夫なのか」と懸念する声も一部で見られますが、各事業者はすでに厳しい基準に沿った巨大な防潮壁の建設などの対策を講じています。
例えば、津波の影響を強く受ける中部電力の浜岡原発がある静岡県御前崎市では、2012年の国の評価を基に、津波の高さを21.1メートルと想定して対策が施されました。すでに高さ22メートル、総延長約1.6キロメートルに及ぶ強固な防潮壁が完成しています。中部電力は2020年1月24日に、今後も最新の科学的知見を柔軟に取り入れながら安全性の向上に全力を尽くすとのコメントを発表しました。
地震調査委員会は今後、東北の日本海溝沿いや北海道の千島海溝沿いなど、他のエリアについても順次津波の発生確率を公表していく方針です。日本に住む以上、私たちは常に震災のリスクと隣り合わせで生きていかなければなりません。公表される科学的なデータを正しく理解し、過度に恐れることなく、日頃からの備えをアップデートしていくことが何よりも重要になるでしょう。
コメント