今、映画ファンの間でチベットの映画作品が熱い注目を浴びています。その先駆者として世界から脚光を浴びているのが、中国青海省の海南チベット族自治州で生まれた現在47歳のソンタルジャ監督です。監督の長編2作目である『草原の河』は、チベット人監督の作品として2017年に初めて日本での劇場公開を果たし、大きな話題を呼びました。そんな彼が手掛けた待望の最新作『巡礼の約束』が、いよいよ2020年2月8日より東京・神保町の岩波ホールにて公開されることになり、早くも期待の声が寄せられています。
本作は聖地ラサを目指して旅をする家族の姿を描いた物語です。主人公となる一家は、独自の文化を色濃く残すチベットのギャロン地域に暮らす人々。この地域出身の高名な歌手であるヨンジョンジャ氏が映画を企画し、チベットを代表する文豪タシダワ氏とソンタルジャ監督が共同で脚本を書き上げました。SNS上でも「ギャロンの独特な文化がどのように描かれるのか楽しみ」「実力派のクリエイターが集結した作品で、公開が待ちきれない」といった熱量の高いコメントが多数見受けられ、前評は上々です。
「ギャロンは農耕民族の暮らす土地です。シナリオを推敲するために現地へ足を運びましたが、独特な方言や美しい石造りの家屋といった文化に深い感銘を受けました」と監督は熱く語ります。劇中では、妻が「五体投地」という礼拝を行いながら巡礼へ向かうことから物語が動き出します。五体投地とは、両手・両膝・額を地面に投げ伏して祈る、チベット仏教で最も丁寧な礼拝方法のことです。この過酷な旅に出た妻の後を夫が追いかけ、さらに前夫との間に生まれた息子も合流していきます。
チベットを舞台にした映画といえば、広大で雄大な自然の景色ばかりを強調するステレオタイプな描写が少なくありません。しかし、ソンタルジャ監督はそうした紋切り型の表現をあえて排除したといいます。なぜなら彼が本当に映し出したかったのは、チベットという記号ではなく、そこに生きる人間そのものだからです。劇中の夫は、妻の元夫に対して嫉妬心を抱きますが、こうした感情は国境や文化を越えて誰もが共感できる普遍的な人間性だと言えるでしょう。
私は、この作品が単なる「異文化を紹介するドキュメンタリー風の映画」に留まらない点に、深い価値があると考えています。美しい景色に頼るのではなく、人間の泥臭い感情や家族の葛藤にスポットを当てることで、観客はチベットの文化を身近に感じられるはずです。文化の違いを超えた普遍的な愛や嫉妬のドラマは、観る人の心を揺さぶるに違いありません。異国情緒を味わいつつも、自分自身の家族や大切な人との関係性を見つめ直す、最高の映画体験をぜひ劇場で味わってみてください。
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