2020年1月29日に配信されたフィナンシャル・タイムズのニューズレター「モラル・マネー」が、金属業界に大きな衝撃を与えています。世界最大の非鉄金属取引所であるロンドン金属取引所(LME)が、取引される金属に対してサステナビリティー、つまり「持続可能性」に関する情報の開示を強く求めているのです。この背景には、同年1月24日に閉幕したダボス会議でも浮き彫りとなった、企業活動におけるESG重視の潮流があります。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとった言葉です。これまで企業価値は利益や売上などの財務情報で測られることが主でしたが、現代では、地球環境への配慮や労働環境の改善、健全な企業経営といった非財務情報こそが、長期的な成長に不可欠であるという考え方が浸透しています。金属という、現代文明を支える素材を扱う取引所においても、この波は避けられない宿命といえるでしょう。
LMEが描く透明性の高い金属市場への転換
LMEは、2022年から取引される商品に対して、一段と厳しい規制を導入する方針を打ち出しました。その狙いは極めて明確です。生産過程で児童労働が関与していたり、深刻な環境破壊を引き起こしたりしている商品を、市場から排除しようという試みです。さらに現在、LMEは「カーボンフットプリント」の開示についても慎重に検討を重ねています。これは、製品の原材料調達から廃棄に至るまでの過程で排出される温室効果ガスの総量を指す指標です。
LMEのマシュー・チェンバレン最高経営責任者(CEO)は、「私たちは今、真の環境負荷を可視化する情報の開示を求められています」と語ります。140年以上の歴史を持つこの巨大取引所は、これまで主に金属の品質を検査することに注力してきました。しかし今後は、環境負荷が少ない金属だけを取引する専用の市場を設けるなど、ビジネスの構造そのものを変革しなければならない岐路に立たされています。SNS上でもこの話題は活発に議論されており、「ついに金属市場もクリーンさが求められる時代か」「投資家として、倫理的な素材を選ぶ目が持てるのは素晴らしい」といった歓迎の声とともに、「コバルトのように供給源が複雑な素材の管理はどうするのか」といった実効性を問うシビアな意見も散見されます。
倫理的な供給網の実現に向けた高いハードル
実際にこの改革を推し進めるには、極めて高いハードルが存在します。チェンバレン氏が懸念するように、児童労働禁止には国際的な基準が存在しますが、温室効果ガスの排出量に関しては、金属種や生産地域によって基準が統一されていないのが現状です。さらに、金属ごとに開示の難易度も大きく異なります。リサイクル技術が発達し、長年のデータが蓄積されている鉛に比べ、電気自動車のバッテリー原料として注目されるコバルトなどは、供給網の透明性確保が非常に困難です。
私個人としても、このLMEの動きを強く支持します。これまで金属価格は、供給と需要という経済的要因のみで語られがちでした。しかし、地球規模での気候変動や人権問題が深刻化する中で、金属の価格にその生産過程における「倫理的コスト」が反映されることは、持続可能な未来を築くための当然の帰結ではないでしょうか。もちろん、急激な変革は市場の混乱を招く恐れもありますが、避けては通れない道です。トレーダー、生産者、そしてそれを利用する企業に至るまで、今、世界中の関係者がLMEの舵取りを固唾をのんで見守っています。
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