かつて外資を積極的に誘致することで経済の発展を遂げてきたタイが、今、大きな転換点を迎えています。これまでのような「投資される国」という枠組みを超え、自国の企業が海外の企業を買収する「投資する国」としての存在感を急速に強めているのです。この変化は単なる一時的なトレンドではなく、タイ経済の構造そのものが新たなステージへ進んだことを象徴する出来事と言えるでしょう。
タイ中央銀行が2020年2月6日に発表したデータによると、2018年の対外直接投資額は過去最高の212億ドルに達しました。これに対して国内への直接投資額は132億ドルにとどまっており、投資を送り出す側が受け入れる側を大きく引き離す結果となっています。特筆すべきは、この傾向がすでに3年連続で続いているという事実です。2019年1月から9月の期間においても対外投資が116億ドル、対内投資が71億ドルとなっており、タイ企業の海外進出への意欲が極めて高いことが数値から読み取れます。
なぜ今、タイ企業は海外へ目を向けるのか
この劇的な変化の背景には、タイ国内の厳しい経済事情があります。国内の人件費が高騰したことで、かつての強みであった輸出競争力に陰りが見え始めています。そこでタイ政府は、産業構造を抜本的に転換させるべく、国内企業に対して積極的に外国進出を促す舵取りを行っています。この戦略は理にかなっており、市場が成熟した国内だけで戦うのではなく、外に打って出ることで生き残りと成長を模索する企業の姿が浮き彫りになっています。
さらに、この動きを後押ししているのが近年の「バーツ高」です。通貨の価値が上がるバーツ高は、輸出においては採算を悪化させる厳しい要因となります。しかし、海外の企業や資産を買収する際には、少ない資金でより大きな価値を得られるというメリットがあるのです。タイの財政は周辺諸国と比較しても非常に健全であり、経常収支も黒字基調を維持していることから、タイバーツは世界的に「安全通貨」として評価されています。
その結果、2019年の後半には1ドル=30バーツ台という、2013年以来の高値圏で推移する事態となりました。SNS上でも「タイ企業が海外企業を飲み込んでいく勢いがすごい」「バーツが強すぎて国内の製造業は大変そうだが、買収には追い風だ」といった驚きの声が広がっています。足元では新型コロナウイルス感染症の影響による一時的な調整が見られるものの、長期的にはこのバーツ高基調が続くと予測する専門家が非常に多い状況です。
私個人としては、今回のこのタイの事例は、アジアの経済地図が塗り替わる非常に興味深い兆候だと捉えています。単に安い労働力を求めるのではなく、外貨を使って価値を買うという戦略に切り替えた点は、非常に戦略的かつ賢明な判断ではないでしょうか。タイのビジネスリーダーたちが、この激動の時代を乗り越えるためにどのような未来を描くのか、今後もその動向から目が離せません。
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