【2020年五輪への警告】ヤクザが映画で国家を嘲笑う?傑作『悪の五輪』が暴く1964年の「裏面史」と熱狂の正体

新元号「令和」の幕開けから1カ月が過ぎた2019年5月30日、世間の関心はいよいよ来年に迫った東京オリンピックへと向き始めています。祝賀ムードが高まる一方で、どこか浮足立った空気に違和感を覚えている方もいるのではないでしょうか。そんな私たちの心情を見透かすように、評論家の野崎六助氏が「目利きが選ぶ3冊」として、あまりに刺激的な一冊を紹介してくれました。その名も、月村了衛著『悪の五輪』です。

タイトルからして不穏な空気が漂っていますが、本書の舞台は2020年ではなく、前回1964年の東京オリンピックです。しかし、そこで描かれるのは私たちが知る「愛と栄光の祭典」ではありません。主人公はなんと、映画をこよなく愛するヤクザ。このアウトローが、国家事業である五輪を虚仮(こけ)にしようと目論み、公式記録映画の監督に三流の人物を据えるべく裏工作に奔走するという、破天荒な物語なのです。

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実在の「黒幕」たちが織りなす、虚実皮膜の伝奇ロマン

本作の最大の読みどころは、フィクションの中に実在の有名人が巧みに配置されている点にあります。伝説のヤクザ・花形敬、映画会社の大映を率いた永田雅一、過激な作品で知られる映画監督の若松孝二、そして戦後最大のフィクサー(黒幕)と呼ばれた児玉誉士夫などが登場します。ちなみにフィクサーとは、表舞台には出ずに政治や経済の裏側で強大な影響力を行使する人物のことですが、彼らが物語に絡むことで、嘘と真実が入り混じった「伝奇」的な世界観が構築されているのです。

野崎氏は、この作品を「じつに面白い」と絶賛しています。戦後復興のシンボルとされた五輪の裏側で、利権に群がる人々や、無謀な戦争に駆り立てられた時代と変わらぬ構造が、アウトローと映画というフィルターを通して透視されているからです。SNS上でも「このタイミングでこの本を読むのは意義深すぎる」「1964年の熱狂の裏にこんな闇があったとは」といった、歴史の暗部を直視した読者からの驚きの声が上がり始めています。

2020年を控えた今、私たちが直視すべき「現実」

コラムニストとして私自身の考えを述べさせていただくならば、本書は単なるエンターテインメント小説の枠を超えた、現代への強烈な風刺であると感じます。私たちは「復興」や「平和」という美名の下で、巨大な利権が動く構造を無意識に見過ごしていないでしょうか。野崎氏が「今回のオリンピックは、どうか」と問いかけているように、半世紀前の物語は、鏡のように今の私たち自身の姿を映し出している気がしてなりません。

なお、野崎氏は他にも注目作を挙げています。『緋い空の下で』(マーク・サリヴァン著)は、第2次大戦末期のイタリアを舞台に、ユダヤ人救出やナチスのスパイとして生きた青年の知られざる歴史を描いた傑作です。また、『或るエジプト十字架の謎』(柄刀一著)は、ミステリーの巨匠エラリー・クイーンの名作を本歌取りした短編集であり、「後期クイーン問題」と呼ばれる、推理の論理的限界や操られた真実という深遠なテーマに挑んだ意欲作となっています。

いずれの作品も、表面的な「正義」や「解決」の裏にある、人間の業や歴史の真実を問いかける力作揃いです。東京の街が五輪カラーに染まっていく今だからこそ、あえて光の当たらない場所に目を凝らす読書体験は、私たちに冷静な視点を与えてくれることでしょう。書店で見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。

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