「治らない病気」とされてきた1型糖尿病の根治を目指し、患者やその家族が自ら研究資金を支援するという画期的な取り組みが注目を集めています。この活動の中心となっているのが、認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワークです。同ネットワークの井上龍夫理事長は、公的な支援が届きにくい難病の研究分野において、当事者主導で科学の進歩を後押しする先駆的な活動を率いています。
1型糖尿病は、小児期に発症することが多い難病です。先天性や生活習慣が原因ではなく、生きていくために不可欠なインスリンというホルモンが体内で分泌できなくなる病気です。このため、患者さんは生涯にわたってインスリンを注射などで補給し続けなければならず、現在のところ完治は難しいとされています。インスリンは血液中のブドウ糖(血糖)を細胞に取り込ませてエネルギーに変える働きを持つ、生命維持に欠かせない物質です。
井上理事長がこの活動を始めたきっかけは、1型糖尿病の研究に150億円以上もの研究費を支援しているアメリカの青少年糖尿病研究財団(JDRF)の存在を知ったことです。これに刺激を受け、日本でも2005年に1型糖尿病研究基金を立ち上げました。この活動には「2025年までに1型糖尿病を根治する」という大きな目標が掲げられており、2008年からは実際に研究助成を開始しています。
日本IDDMネットワークがこれまで支援してきた研究テーマは多岐にわたります。例えば、「試験管内でどのような細胞からでもインスリンを作れる技術」や、医療用に改良したブタの膵島(すいとう)、つまりインスリンを分泌する細胞の塊を移植するバイオ人工膵島移植、さらには「糖尿病の原因とされるウイルスに対するワクチン開発」など、最先端で夢のある研究ばかりです。同ネットワークは年に一度サイエンスフォーラムも開催しており、第一線の研究者が最新の研究成果を直接紹介する機会を提供しているそうです。
2019年6月7日時点で、これまでに助成された研究は61件に上り、その総額は3億500万円という規模に達しています。このうち、約2億円という巨額の資金は、佐賀県のふるさと納税を通じて集められたものです。ふるさと納税という仕組みを活用することで、より多くの方が難病研究を応援できる道を開いたことは、非常に意義深いと言えるでしょう。現在も「針を刺す必要がない血糖値センサー」の開発に必要な2,500万円の寄付をふるさと納税で募っている最中です。
また、研究支援をさらに強化するために、新たな仕組みも導入されました。それは、助成した研究の成果が実用化された際に発生する特許の実施料収入を、日本IDDMネットワークが研究資金として還元してもらうというものです。これは、支援した研究が成功すればするほど、次の研究への資金が生まれるという、持続可能な研究開発サイクルを生み出す素晴らしい取り組みだと感じます。
難病の治療法開発は、本来であれば国が積極的に支援すべき分野であることは間違いありません。しかし、現状では十分な研究費が充当されていないため、病気の当事者である患者さんや家族が自ら立ち上がり、国の手が届かない重要な研究を支援せざるを得ない状況が生まれています。このような熱意と行動力は、同じ難病に苦しむ多くの方々にとって、大きな希望となっていることでしょう。日本IDDMネットワークは、1型糖尿病が根絶されるその日まで、研究支援を粘り強く継続していく決意を示しています。
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