日本の株式市場が今、大きな転換期を迎えています。2019年11月29日現在の状況を見ると、東京証券取引所(東証)の第1部へ移行する企業数が、昨年と比較して約3割も急減していることが明らかになりました。2018年11月から開始された市場構造の見直し議論が、企業の背中を押すどころか、逆にブレーキをかけてしまっているようです。
東証1部といえば、日本を代表する大企業が集う「最上位市場」であり、上場は企業の信頼性や知名度を飛躍させる絶好のチャンスです。しかし、この1年間で移行を果たしたのはわずか59社。例年なら70社を超える勢いがある中で、この落ち込みは異常事態と言えるでしょう。SNS上でも「目標にしていた1部が遠のいた」「基準が不明確で動けない」といった、スタートアップ企業の戸惑いの声が目立っています。
不透明な審査基準がスタートアップの夢を阻む
なぜ、これほどまでに企業は慎重になっているのでしょうか。その最大の理由は、改革後の新しい上場基準が不透明であることです。あるマザーズ上場企業の担当者は、全国展開の足がかりとして1部昇格を狙ってきましたが、現在は申請を見送っています。せっかく高いハードルを越えても、制度変更ですぐに降格させられては意味がないという、極めて現実的な判断が働いているのです。
ここでいう「マザーズ」とは、新興企業向けの市場を指します。本来はここから1部へとステップアップするのが成長の王道ルートですが、現在はその「出口」が霧に包まれた状態です。市場関係者の間でも、申請件数が想定を大きく下回っていることへの懸念が広がっており、議論の長期化が企業の経営判断に深刻な影響を及ぼし始めています。
議論の迷走と「駆け込み」という名の逆転現象
東証が改革を急ぐ背景には、1部上場企業が2100社を超え、「最上位としての希少価値が薄れている」という批判があります。しかし、有識者会議での情報漏洩問題や、他分野での政治的な混乱が重なり、議論の決着時期はいまだに見えてきません。私自身の見解としては、制度の健全性を高めるための改革が、意欲ある企業の挑戦を阻害している現状は、本末転倒であると感じざるを得ません。
一方で、2019年11月20日に金融審議会が示した「経過措置」の案を受け、一部では「駆け込み」の動きも出始めています。新基準を満たさなくても、今のうちに1部に滑り込めば、新設される「プライム市場(仮称)」に残留できる可能性があるからです。プライム市場とは、高いガバナンスと流動性を持つ企業向けの最上位区分ですが、現時点では旧基準での駆け込みを許容するような、歪んだ構造が生まれつつあります。
東証1部の質を高めるという本来の目的を果たすためには、企業が納得できる明確な基準とスピード感のある決断が不可欠です。年内にまとめられる報告書を経て、東証がどのような具体策を打ち出すのか。投資家も企業も、固唾をのんでその行方を見守っています。不透明な霧を晴らし、再び活気ある市場を取り戻すための「審判の時」が近づいています。
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