お祝いの席を彩る高級魚として知られるマダイですが、その生産量が日本一を誇る愛媛県では、タイは非常に身近で愛されている存在です。2019年11月29日現在、県内各地で多種多様な郷土料理が親しまれていますが、なかでも「鯛飯」は訪れる人々を虜にする特別な一品でしょう。ひと口に鯛飯と言っても、実は地域によって驚くほどスタイルが異なることをご存知でしょうか。
近年、特に観光客の間で熱い視線を浴びているのが、愛媛県南部をルーツに持つ「宇和島鯛めし」です。松山市などの県中部で愛されている伝統的な炊き込みご飯スタイルとは一線を画す、その独特な食べ方が人気の秘密かもしれません。新鮮なタイの刺身を、醤油ベースの特製ダレに生卵を溶いたものへ贅沢に潜らせ、海藻や薬味と一緒に温かいご飯へ豪快にかけるスタイルなのです。
口に運べば、タイの濃厚な旨味と磯の芳醇な香りが渾然一体となって広がり、まさに「究極の卵かけご飯」と呼ぶにふさわしい贅沢な味わいが楽しめます。この料理の起源は、かつて伊予の海を舞台に活躍した海賊や漁師たちにまで遡ると言われています。船上という火の使用が制限される過酷な環境下で、酒盛りの締めに釣ったばかりの魚を刺身にしてご飯に乗せて食べたのが始まりという、実にワイルドな物語を秘めているのです。
SNS上でも「これまでの鯛飯の概念が覆された」「濃厚なタレと卵が絡むタイが最高に美味しい」といった驚きと感動の声が続出しています。この元祖の味を守り続けているのが、宇和島市内の名店から味を継承した松山市内の「丸水(がんすい)」です。こちらでは、希少な天然真鯛(時価2100円から)はもちろん、旨味が凝縮されたブランド養殖魚「鯛一郎クン(1600円)」を選ぶことも可能ですよ。
一見するとボリューム満点に見えますが、マネジャーの岩田誠司さんによれば、女性客でも1合ほどのご飯をあっという間に完食してしまうそうです。「漁師飯らしく、気取らずにがっつりと頬張ってほしい」というお店側の想いが、食欲をさらに加速させるのでしょう。一方で、松山市にある「五志喜(ごしき)」では、ふっくらと炊き上げた「松山鯛めしランチ(1600円)」が1日20食限定で提供されています。
こちらは焼いたタイをお米と一緒に炊き込むスタイルで、身の甘みがご飯の隅々まで染み渡った、優しく心温まる味わいが魅力です。宇和島の「動」の美味しさに対し、松山の「静」の美味しさという、対照的な二つの文化が共存している点が愛媛の奥深さだと言えるでしょう。地元のスーパーにも多様な鯛飯が並ぶ光景からは、この料理が単なる観光資源ではなく、県民の生活に深く根付いていることが伺えます。
私個人としては、豪快な宇和島スタイルこそ、素材の鮮度に絶対の自信を持つ愛媛だからこそ成立する贅沢の極みだと感じます。伝統を重んじつつも、現代の美食家たちを魅了し続ける鯛飯は、まさに愛媛の誇りです。現地を訪れた際は、ぜひ歴史に思いを馳せながら、この力強い漁師の味を堪能してみてください。洗練されたレストランで食べるのも良いですが、そのルーツにある海賊たちの荒々しい生命力を感じられるはずです。
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