おしゃれな真っ赤な車体が、東京・池袋の街をトコトコと駆け抜けていく姿をご存じでしょうか。2019年11月から運行を開始した電動小型バス「IKEBUS(イケバス)」が、今まさにSNSを中心に「レトロで可愛すぎる」「まるでおもちゃの世界から飛び出してきたみたい」と大きな注目を集めています。写真映えするその姿に、思わずカメラを向ける通行人も少なくありません。
この愛らしい車両を開発したのが、群馬県桐生市に拠点を構える「シンクトゥギャザー」という企業です。大手自動車メーカーがスピードや航続距離を競い合う中、彼らはなんと「時速19キロメートル」という、驚くほどの低速電気自動車(EV)に特化したモノづくりを続けています。この徹底したニッチ市場の開拓こそが、今の時代に求められる新たな移動手段の形なのです。
観光と環境を両立させる「低速EV」の底力
再開発が進む東京都豊島区は、街を楽しく回遊できるエコな交通手段を模索していました。そこで白羽の矢が立ったのが、同社が誇る10輪の電動車両でした。このイケバスは、豪華寝台列車「ななつ星in九州」などのデザインで世界的に知られる水戸岡鋭治氏が意匠を手掛けており、街の新たなシンボルとして定着しています。
ここで注目したいのが「低速EV」という仕組みです。これは文字通り、電気モーターで動く速度の遅い自動車のことを指します。速度が出ないことは一見デメリットに思えますが、実は大きな強みがあります。乗客がゆっくりと車窓から街の景色や買い物を楽しめるだけでなく、万が一の事故のリスクを劇的に減らせるため、歩行者の多い観光地や中心街には最適なシステムなのです。
同社を率いる宗村正弘社長は、かつて大手自動車メーカーのSUBARUで車体設計の最前線にいたプロフェッショナルです。2007年の創業当初はコンサルタント業を営んでいましたが、群馬大学のプロジェクトに参加したことで運命が大きく変わりました。速度を抑えた車両であれば、公道を走るためのナンバープレートを比較的スムーズに取得できる点に着目し、この未知なる市場へ参入したのです。
分業体制で加速する!乗る人を笑顔にする未来の車
現在展開している16人乗りの「eCOM-10」は、税別1900万円から購入が可能です。屋根にソーラーパネルを設置して太陽光で発電するといった、顧客のニーズに合わせた自由なカスタマイズができる点も魅力といえます。すでに全国で数十台が導入されており、その利便性とユニークな外観は各地で高い評価を獲得してきました。
さらに、同社は2019年7月に特殊車両の改造を得意とする富士車体工業と製造委託契約を結びました。今後は組み立てなどの生産を信頼できるパートナーに任せ、自身は新しい車両の開発にすべてのエネルギーを注ぎ込む方針です。この選択と集中による効率的な経営手法は、これからのベンチャー企業が生き残るための素晴らしいロールモデルだと感じます。
単なる移動手段としての車ではなく、乗ること自体がエンターテインメントになるような低速EVの可能性は無限大です。宗村社長が語る「乗ってくれる人が笑顔になる車を作りたい」という温かい情熱は、効率ばかりを追い求める現代社会に大切な視点を与えてくれます。次はあなたの街にも、こんな素敵なEVがやってくるかもしれません。
コメント