かつて子供たちが夢見た、空飛ぶ車が飛び交う未来予想図のターニングポイントである2020年をマレーシアは迎えました。1991年当時にマハティール首相が掲げた高進国への仲間入りを目指す国家目標「ビジョン2020」の達成年として、同国では特別な意味を持ってきたのです。しかし、華やかな理想とは裏腹に、現在のマレーシアを取り巻く状況は厳しい現実に直面しています。
現在のマレーシア経済は、1人あたりの国内総生産(GDP)が1万ドルを超えているものの、成長の勢いにかげりが見え始めています。四半期ごとの経済成長率は4%台まで失速しており、外資による製造業への投資額も2019年1月から2019年9月までの期間で35億ドルにとどまる見込みです。2018年通年の97億ドルと比較すると、その鈍化傾向は一目瞭然と言えるでしょう。
こうした景気低迷の背景として、2018年5月10日に発足したマハティール新政権が、前政権の不正追及へエネルギーを注ぎすぎた点を挙げる専門家も少なくありません。政府系ファンド「1MDB」をめぐる巨額の汚職疑惑を最優先で捜査し、ナジブ前首相の責任追及を進めました。さらに財政健全化の名のもとに、大規模なインフラ整備計画を次々と凍結したのです。
しかし、過去の負の遺産を白日の下にさらした改革は、思わぬ副作用を生んでいます。新政権の財務相が「国家債務が1兆リンギを突破した」と暴露したことで、市場には激震が走りました。前政権が公表していた数値をはるかに上回る借金の存在が明らかになり、リスクを恐れた海外の投資家たちが一斉に様子見の姿勢を強めてしまったのは当然の流れでしょう。
SNS上でも「不正を正すのは素晴らしいが、経済が止まっては元も子もない」「投資が逃げている現状は看過できない」といった不安の声が目立っています。もちろん政府も手をこまねいているわけではなく、主要産業である観光業のテコ入れに奔走中です。「ビジット・マレーシア2020」を掲げ、年間3000万人の観光客誘致を目指しています。
中国やインドからの旅行者を対象とした期間限定のビザ免除措置など、なりふり構わぬ対策を打ち出していますが、この経済浮揚策の成否は政治の安定にかかっています。最大の焦点は、現在94歳という高齢のマハティール首相が、約束通りアンワル元副首相へスムーズに権力を移譲するかどうかという、極めて不透明な政権のバトンパス問題です。
かつて宿敵だった2人は選挙のために手を組みましたが、禅譲の具体的な時期はいまだ明言されていません。さらに、アンワル氏に再び同性愛の醜聞が浮上するなど、後継者争いを揺るがすスキャンダルが相次いでいます。イスラム教を国教とするマレーシアにおいて、同性愛行為は違法であり、過去に有罪判決を受けた同氏にとっては致命傷になりかねません。
私は、現在のマレーシアが真の先進国になるためには、過去の膿を出すだけでなく、次世代への確実な道筋を示すべきだと考えます。政治の私物化を防ぐクリーンな政治への転換は不可欠ですが、後継をめぐる内紛で市場の信頼を失えば元も子もありません。マハティール氏には、老獪な政治手腕をもって一刻も早く安心感を世界に示すことが求められます。
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