日本における不動産投資信託(REIT:リアルエステート・インベストメント・トラスト)市場の拡大が止まりません。市場創設から20年足らずとなる2019年6月時点で、上場銘柄は60を超え、その時価総額はなんと14兆円を突破する規模に達しています。これは東証一部に上場する不動産業界全体の時価総額を上回る巨大市場であり、米国に次ぐ世界第2位の規模を誇るまでになりました。その背景には、国内外からの豊富な投資マネーの流入がありますが、この市場の活況を長らく後押ししてきた日本銀行(日銀)による異例の買い入れ策が、いまや市場に新たな「ひずみ」を生み出している現状が見逃せません。
日本株の値動きが低迷する中で、海外の投資家からの関心は、安定した利回りが期待できる日本のREITへと集まっています。モルガン・スタンレーMUFG証券の竹村淳郎氏のもとには、「どの銘柄に投資すべきか」といった問い合わせが、海外ファンドの運用担当者から相次いでいるといいます。一般的にREITは株式に比べて利回りが高く、価格変動も比較的安定しているという特性を持っています。そのため、足元で世界経済の先行き不透明感が増す局面では、海外からの資金が安全資産としての魅力を持つREITに向かいやすくなる傾向があるのです。
日本のREIT市場は、バブル経済崩壊後の不動産価格低迷期である2001年9月に、日本ビルファンド投資法人とジャパンリアルエステイト投資法人の2銘柄の上場をもってスタートしました。その当初の目的は、個人投資家の資金を不動産市場に呼び込み、市場の活性化を図ることにありました。その後、2002年以降の制度改正により、地方銀行などがREITからの収益を業務純益に計上できるようになると、金融機関による投資が活発化し、さらにファンド・オブ・ファンズ(複数の投資信託に投資する投資信託)が認められたことで、買い手の裾野は大きく広がることになります。投資対象となる保有不動産も、当初のオフィスビル一辺倒から、現在では賃貸住宅、商業施設、ホテル、物流施設、ヘルスケア施設などへと著しく多様化している点も、市場の成長を支える大きな要因でしょう。
日銀の異例の買い入れが市場を支える構図
しかし、日本のREIT市場の拡大を語る上で、日銀の存在を切り離すことはできません。2008年のリーマン・ショックでは、不動産価格が暴落し、多くのREITが多額の含み損を抱え、ついには初の経営破綻事例も発生しました。REITという大きな買い手が市場から失われたことで、不動産相場はさらなる下落という負の連鎖に陥ってしまう状況でした。こうした危機的な状況を受け、日銀は2010年に金融政策の一環としてREITの買い入れを開始します。その後も段階的に買い入れ枠を拡大し、市場を下支えしてきたのです。
特に、2016年に導入されたマイナス金利政策によって、国債や社債の利回りが極端に縮小すると、「より高い利回り」を求めるマネーは、相対的に魅力が増したREITへとさらに流入することになります。日銀は現在、格付けが「ダブルA格」など一定の条件を満たす銘柄を、年間900億円をめどに買い入れる方針を継続しています。SMBC日興証券の調査によれば、2019年5月末時点で日銀のREIT保有額は簿価ベースで5,280億円に達しており、一部の約20銘柄では、1銘柄あたりの上限10%に対して5%以上を保有する大株主となっていると見られています。
深まる「日銀依存」と価格のひずみ
この長期間にわたる日銀の買い入れが、現在のREIT市場にひずみを生み出していると私は感じています。「日銀が買っているから稟議が通りやすかった」と、ある地銀の運用担当者が打ち明けるように、日銀の買い入れは、結果として市場にマネーを呼び込む呼び水となりました。しかし、この影響で、日銀の買い入れ対象銘柄と投資対象が重なる上場投資信託(ETF)に人気が集中するなど、投資マネーがごく一部の銘柄に偏りやすい構造を作り出してしまった側面があります。
運用会社の幹部からは、「一部のREITの価格は、その実力以上にかさ上げされている可能性がある」との指摘も出ています。SMBC日興証券の鳥井裕史氏は、REIT価格がこの先さらに一段高となれば、公募増資(新規に株式を発行して資金を調達すること)が容易になり、物件の取得合戦が再び強まるリスクがあると警鐘を鳴らしています。価格が高騰している中で、さらに高値で物件を取得することになれば、将来的な収益性や利回りの悪化につながる懸念があるからです。
皮肉にも、日銀自身が2019年4月には、REITを含む不動産業向け融資の過熱感を指摘する状況です。不動産市況は一般に上昇サイクルの終盤に差し掛かっているという見方が大勢を占めています。しかし、市場の一部には、「市況が悪化しても、どうせ日銀が買い支えてくれるだろう」という**「日銀頼み」の期待感が根強く残っています。こうした「日銀依存」の構造が深まれば深まるほど、本来、市場で適正な価格が形成されるはずの価格発見機能**が弱まってしまうのではないでしょうか。市場の健全性を保つためにも、日銀の金融政策の出口戦略と、それに対する市場の自律性が今後より一層重要になってくるでしょう。

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