欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が、フランスのルノーとの経営統合の提案を2019年6月6日に撤回し、わずか10日間で世界的な巨大自動車連合を築く構想が消滅しました。この劇的な白紙撤回の背景には、ルノーの主要株主であるフランス政府の度重なる介入があったとされています。仏政府の意向が強く反映されるというルノー特有の企業体質と、そのような企業との統合が抱えるリスクが浮き彫りになった出来事でしょう。そして、この統合劇の失敗は、ルノーと提携関係にある日本の日産自動車との関係の溝をさらに深め、両社の今後の動向に対する不透明感を強める結果となりました。
統合撤回の直前、2019年6月5日の午後6時からパリ郊外のルノー本社で開かれた取締役会では、統合への反対意見が明確に示されていました。ルノーの労働組合の代表取締役らは、「FCAとの統合には反対だ」「長期的な雇用の保証などが示されない限り賛成はできない」と強く主張したといいます。ルノーの取締役会は、日産の元会長であるカルロス・ゴーン氏を除く全19人で構成されており、フランス政府から2人、日産から2人、そして労組代表など従業員選出の4人、さらに独立社外取締役10人と、多様な関係者が参加していました。
ルノーのジャンドミニク・スナール会長が議長を務めたこの取締役会では、全会一致の結論を導き出すことが非常に困難で、議論がまとまらない状況が続きました。最終的に採決を断念し、結論を次回の取締役会に持ち越すことで、かろうじて合意するのが精一杯の状況だったそうです。この結論の先送りの報を受け、固唾をのんで結果を待っていたFCAは即座に統合案の撤回を決断しました。FCAは公式声明で「統合を成功させるのに必要な政治的環境が現在のフランスにはない」と述べ、フランス政府を明確に非難しています。関係者の間でも「責任はフランス政府にある」との見方が強まっているようです。
フランス政府は、統合新会社の最高経営責任者(CEO)などの要職にルノー出身者が就くことの確約や、仏政府側からの取締役を受け入れることなど、交渉において次々と要求を突きつけてきました。イタリア紙『コリエレ・デラ・セラ』によると、FCAのジョン・エルカン会長は、2019年5月の正式提案前の下交渉から、スナール会長だけでなく、ルメール経済・財務相やマクロン大統領とも会談し、周到な準備を重ねていたそうです。エルカン会長は、この統合が「事実上のFCAによるルノーの買収」と見られるのを払拭しようと、提案を行った2019年5月27日以降も連日、仏政府関係者と協議を重ね、一定の譲歩も示していました。
しかし、仏紙『フィガロ』などによれば、ルメール経済・財務相はエルカン会長に対し、電話などを通じて仏側に統合の条件が有利になるよう繰り返し要求を続けたとされています。これには関係者からも「次から次へと介入してくる。これではバランスがとれない」と、強い不満の声が上がっていました。エルカン会長は、ルノーが結論を持ち越すという知らせを受けてからわずか数分で撤回を決断したと見られており、その失望の大きさがうかがえます。一方でフランス政府は、破談の理由を「素早く統合を進めたいFCAと、日産との連携をとりたかったルノーとの時間軸の違い」としています。
ルノーは「FCAによる統合提案をこれ以上協議することができず、失望している」とのコメントを出していますが、統合白紙化に対するSNS上での反響は非常に大きく、#FCAルノー統合 や #仏政府介入 といったキーワードで多くの議論が展開されています。「やはり政府が深く関わる企業との統合は難しい」「仏政府のエゴでチャンスを逃した」といった、フランス政府の姿勢を批判する意見が目立ちます。また、「ルノーと日産の提携関係は今後どうなるのか」「日産の孤立が心配だ」など、この一件がアライアンスの行く末に与える影響を懸念する声も多く見受けられました。
🇫🇷国家の思惑が招いた「大統合」の破綻とその影響
私見として、今回の統合交渉の破綻は、ルノーという企業が抱える特異な構造、すなわちフランス政府が2割弱の株を保有し、拒否権を持つという点が最大の原因であると考えます。企業がグローバルな競争力を高めるための「大統合」という純粋な経済合理性に基づく動きに対して、フランス政府が「国益」を盾に自国に有利な条件を次々と要求し、結果として交渉のバランスを崩壊させてしまったのです。これは、企業経営の意思決定に政治が過度に介入することの危険性を改めて示唆していると言えるでしょう。FCAとルノーによる新統合会社が誕生すれば、ルノーを通じて日産に及んでいた仏政府の影響力が弱まり、日産にとっては独立性を高める好機となり得たかもしれません。しかし、その思惑は皮肉にも、当のフランス政府の行動によって打ち砕かれてしまいました。
この一件により、日産はルノーとの関係修復と将来的なアライアンスのあり方について、さらに難しい舵取りを迫られることになります。ルノーはFCAという巨大な後ろ盾を得る機会を失い、仏政府の意向に左右される「孤立」した立場が鮮明になったと言えるでしょう。自動車業界ではCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる変革期を迎えており、規模の経済がますます重要になっています。今回の統合破談は、ルノーがこの激しい業界再編の波の中で、新たな戦略をどう描き直すのかという課題を突きつけるものになったと結論づけられるでしょう。
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