近頃、高齢ドライバーによる痛ましい交通事故のニュースが後を絶ちません。こうした悲劇を防ぐための切り札として期待されているのが、シニア向けの運転教室です。しかし、その普及を阻む意外な「壁」が浮き彫りになってきました。本来、教育の場であるはずの自動車学校が、今まさにパンク寸前の状態に陥っているのです。
2019年07月21日、栃木県鹿沼市にある栃木県運転免許センターでは、小雨の降るあいにくの空模様の中、特別な講習が開催されました。試験コースには27台もの乗用車が集結し、並べられたカラーコーンの間を縫うように走る「スラローム走行」に挑戦しています。これは自身の運転技術を客観的に見つめ直すための、非常に貴重な機会といえるでしょう。
現場では、教習所の指導員が熱心にアドバイスを送っていますが、こうした光景は全国的に見れば決して多くありません。SNS上では「親に運転教室へ行ってほしいけれど、予約が全く取れない」「近所の教習所は高齢者講習だけで数ヶ月待ちと言われた」といった、切実な悲鳴に近い声が次々と上がっているのが現実なのです。
制度の義務化が招いた皮肉な人手不足の実態
なぜ、これほどまでに運転教室の開催が困難なのでしょうか。その最大の要因は、75歳以上のドライバーに義務付けられている「認知機能検査」にあります。これは記憶力や判断力を測定し、認知症の恐れがないかを確認する検査のことですが、この受託業務が自動車学校のキャパシティを大きく圧迫しているのです。
教習所側としては、法律で定められた義務講習や検査を優先せざるを得ません。その結果、任意で参加する「安全運転教室」にまで人員やコースを割く余裕がなくなっています。技術を磨きたいという意欲あるシニアが、制度の枠組みによって学ぶ機会を奪われているという、なんとも皮肉な逆転現象が起きていると言わざるを得ません。
私は、この現状を非常に危惧しています。事故を防ぐには、脳の検査だけでなく、実際の車両感覚やブレーキ操作といった「身体的なスキル」の維持が不可欠だからです。検査をこなすだけで精一杯の現状は、いわば対症療法に過ぎません。現場の負担を軽減し、誰もが気軽に技術を学べる環境を整えることこそが、真の交通安全への近道ではないでしょうか。
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