インターネット上の「住所」にあたるドメインの売買が、今、非常に熱を帯びています。企業などが過去に使用し、現在は手放された“中古ドメイン”が、第三者の手に渡り、驚くほどの高値で取引されているのです。こうした売買自体は法的な問題はありませんが、その背景には高いアクセス数を狙ったビジネスの思惑や、悪用される危険性も潜んでおり、ネット界隈で大きな議論を呼んでいます。
その熱狂ぶりを示す事例が、2019年6月に開催されたネットオークションです。コンビニエンスストア「ファミリーマート」に統合された「サークルKサンクス」のホームページに、かつて使われていたドメイン「circleksunkus.jp」が、ドメイン登録サイト「お名前.com」に出品されました。入札期限は6月18日午後7時でしたが、6月14日午後5時の時点で、価格はすでに約101万円にまで高騰するという異例の事態となっています。
このドメインは、運営会社であるGMOインターネットによると、4月末に更新期限を迎え、6月1日から誰でも取得できる状態になったため、同社が登録して出品したといいます。一方、ファミリーマートの親会社であるユニー・ファミリーマートホールディングスは、このドメインの使用予定はないと説明しており、社内規定に基づき対応しているとのことでした。この高額落札のニュースはSNSでもたちまち話題となり、「サークルK愛されすぎだろ」「ドメインってそんなに価値があるのか」といった驚きの声や、「アクセスが悪用されるのでは」と懸念を示す意見も多く見られました。
そもそもドメインとは、電子メールアドレスの「@」以降や、ウェブサイトの「www.」以降の部分を指す、インターネット上で通信先を識別するための文字列です。世界的な割り当てはアメリカの非営利団体「ICANN」が行っていますが、日本国内で使われる末尾が「.jp」のドメインは、民間の日本レジストリサービス(JPRS)が管理しています。登録希望者は、GMOなどの代行業者を通じて申請し、登録後は更新料を支払い続ける必要があります。支払いが途絶えて失効すると、一定の凍結期間を経て、第三者でも登録できるようになるという仕組みです。
こうした中古ドメインが高値で取引されるのは、有名企業が使用していた履歴があるドメインは、GoogleやYahoo!などの検索サイトで上位に表示されやすく、結果としてアクセス数が上がりやすい傾向があるためです。アクセス数が多ければ、それだけ広告収入の増加につながるため、中古品でも高い価値がつくというわけです。これは、いわゆる「SEO(検索エンジン最適化)」において、ドメインの過去の評価や被リンクなどが引き継がれることが影響していると考えられます。
中古ドメインの利用目的と危険な悪用リスク
ドメイン売買は広く行われている市場ですが、その利用目的が問題となるケースも実際に発生しています。例えば、内閣官房IT総合戦略室によると、過去には政府機関が使用していたドメインが第三者に取得され、不適切なサイトの開設に使われた事例がありました。これを受け、政府は2018年3月に、各府省の情報管理者向けにドメインの管理に関するガイドラインを策定しています。ここでは、ドメインを移行・廃止する場合、第三者による早期取得を防ぐため、運用停止後も1年以上の登録継続が求められるようになりました。
さらに、2019年4月には、旧山梨医科大が手放したドメインが、アダルトサイトの開設に使われていたことが発覚し、社会的な注目を集めました。このドメインは、高等教育機関などしか利用できない末尾が「ac.jp」という種類のドメインであったため、総務省は同月に、登録審査が不十分であったとしてJPRSを行政指導しています。公共性の高いドメインが悪用される事態は、ネット社会の信頼性を揺るがしかねない大きな問題です。
私見ではありますが、ブランド力のあるドメインは、いわばネット上の「一等地」であり、その価値に見合った適切な管理が企業や組織には強く求められるべきだと考えます。ITジャーナリストの三上洋氏は、「よく知られたドメインが悪意を持つ第三者に渡った場合、偽サイトを作って詐欺や個人情報の窃取といった悪質な行為に悪用されるリスクもある」と警鐘を鳴らしています。企業の皆様には、手掛けたブランドやサービスが終了した後でも、すぐに手放すのではなく、一定期間保有し続けるといった危機管理の意識が重要でしょう。ドメインは単なる文字列ではなく、企業やブランドの信用そのものを表していると認識すべきでしょう。
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