愛媛県松山市の道後温泉本館は、明治時代に改築されて以来125年という長い歴史を誇る国の重要文化財ですが、後世にその雄姿と歴史を伝えるため、2019年(平成31年)1月より長期にわたる保存修理工事が進行中でございます。この工事は、歴史的な公衆浴場としては全国で初めて、営業を続けながら実施されている点が非常に画期的で、温泉ファンのみならず多くの方から注目を集めていますね。このピンチをチャンスに変えようという「道後REBORNプロジェクト」の一環として、このたび、驚くほど魅力的な取り組みが発表されました。
それは、工事中の建物を覆う巨大な「素屋根(すやね)」を活用した、壮大なラッピングアートの実施です。松山市は、2019年(令和元年)7月中旬から、漫画の神様・手塚治虫先生が生涯をかけて描き続けた傑作『火の鳥』のキャラクターをあしらったイラストで、本館の工事用覆いを彩る計画を明らかにいたしました。この「見せる工事」としての観光資源化の試みは、工事期間中も道後温泉の魅力を失わないための、まさに起死回生のアイデアだと感服いたします。
描かれるイラストは、単に「火の鳥」を登場させるだけではありません。道後温泉に古くから伝わる聖徳太子の来訪の伝承、そして道後温泉のシンボルであるシラサギなども織り交ぜ、壮大な歴史絵巻をイメージしてデザインされているそうです。手塚治虫先生の**「火の鳥」は「永遠の生命」の象徴であり、「再生」というテーマを掲げる今回のプロジェクトにこれ以上ないほどぴったりではないでしょうか。最頂部の高さが約20メートルにもなる素屋根の東側約3分の1を、南北34メートル、東西19メートルの巨大シートで覆うというのですから、その迫力は想像に難くありません。
この取り組みは、工事期間中の寂しい景観を一変させ、新たなフォトスポットとして多くの観光客を呼び込む起爆剤となるでしょう。実際、インターネットのSNS上では、「工事現場までアートにする発想が素晴らしい」「火の鳥が守っているようで神々しい」「これは絶対に見に行きたい」といった、期待に満ちた反響が多数寄せられています。松山市は、このラッピングアートを2021年(令和3年)3月末までの予定で展開するとしています。約7年間の工事期間中も、本館は規模を縮小して部分営業を続けていますから、アートと温泉浴の両方を楽しめる貴重な機会になるに違いありません。
✨「道後REBORNプロジェクト」が描く未来の形
そもそも、素屋根とは、建築や土木の工事現場において、風雨や直射日光から建物を保護したり、資材の飛散を防いだりするために仮設される覆いのことですね。今回のケースでは、この「工事のための覆い」を、逆に「魅力を発信するキャンバス」へと見事に変貌させています。これは、文化財の保存と観光振興という、一見相反するテーマを両立させようとする松山市の意欲と情熱の現れではないでしょうか。保存修理工事の情報を開示し、その過程を見せる「見せる工事」は、文化財への理解を深めるとともに、工事期間をむしろ特別な観光体験に変えるという、極めてクリエイティブな戦略だと言えます。
「火の鳥」とのコラボレーションは、この「道後REBORNプロジェクト」の軸となる企画の一つで、すでに2019年(平成31年)1月15日の工事開始に合わせて、本館西面の入口に「火の鳥」をあしらった日除け幕や灯籠が設置されていました。さらに、同年4月には、デジタルアートの専門家集団であるネイキッド社が手掛けるプロジェクションマッピング**「道後温泉×ネイキッド MESSAGE-火の鳥、到来-」も始まっており、道後温泉の夜を鮮やかに彩っています。こうした継続的な発信こそが、長期にわたる工事期間中の集客力を維持する生命線となりますでしょう。
この壮大なプロジェクトは、私たち編集者の視点から見ても、地域の宝を未来へ継承するための模範的な取り組みだと強く感じています。単なる修繕で終わらせるのではなく、手間と時間をかけて「物語」を紡ぎ出し、新しい価値を生み出そうという姿勢は、多くの地域にとって参考になるはずです。道後温泉本館が「火の鳥」の力で生まれ変わり、さらに輝かしい姿で未来に引き継がれていくことを、心から期待しています。
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