2019年11月16日から2019年11月17日にかけて開催されるはずだったアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が、突如として中止に追い込まれました。開催国であるチリ国内での激しいデモや内政の混乱が理由であり、致し方ない側面はあるものの、世界経済の羅針盤ともいえるこの会議の不在は大きな痛手です。
SNS上では「米中の歩み寄りを期待していたのに残念だ」「アジア太平洋の安定が揺らぐのではないか」といった不安の声が広がっています。1989年の発足以来、30年にわたり一度も欠かさず開催されてきた歴史があるだけに、今回の事態が「会議の漂流」という悪しき前例にならないか、多くの人々が固唾を飲んで見守っている状況といえるでしょう。
対立を和らげる「緩衝材」としてのAPECの真価
そもそもAPECとは、日本やアメリカ、中国など21の国と地域が参加し、経済的な結びつきを深めるための枠組みを指します。特定の条約に縛られるのではなく、緩やかな連携を通じて「自由貿易」を推進するのが最大の特徴です。自由貿易とは、関税などの壁を取り払い、国をまたいだ商品やサービスのやり取りを活発にすることを意味します。
昨今は保護主義、つまり自国の産業を守るために他国からの輸入品を制限する動きが強まっており、世界経済には暗雲が垂れ込めています。こうした逆風が吹く今だからこそ、共通の目標を掲げるAPECの存在意義は極めて大きいのです。主要国のリーダーが一堂に会する場が失われることは、世界にとって計り知れない損失となるでしょう。
特に注目されていたのは、対立が続く米中両国の首脳会談です。トランプ大統領と習近平国家主席は、このチリの舞台で貿易交渉の「部分合意」に署名する予定でした。しかし、会議が中止になった途端、両国の足並みは再び乱れ始めています。こうした光景を見るにつけ、APECが対立を和らげる貴重な「緩衝材」であったことを痛感せざるを得ません。
未来を見据えた代替開催への歩み寄りを
現在、2020年1月にもアメリカで代替会議を開く案が浮上していますが、次期議長国のマレーシアが自国開催への影響を懸念し、調整は難航している模様です。私は、各国の利害を超えて早期開催に踏み切るべきだと強く確信しています。一度定着した枠組みが形骸化してしまえば、アジア太平洋地域の成長エンジンを止めることになりかねません。
APECはこれまで、環太平洋経済連携協定(TPP)のような広域の自由貿易圏を生み出す土壌となってきました。単なる話し合いの場ではなく、具体的な経済発展を後押ししてきた実績があります。今こそ関係各国は、2国間のメンツやスケジュールの都合を脇に置き、地域全体の利益のために妥協点を見出すべきではないでしょうか。
自由で開かれた経済こそが、結果として各国の繁栄をもたらすという原点に立ち返る時です。APECというアジア太平洋を繋ぐ強力な「接着剤」を乾燥させてはなりません。一日も早く、首脳たちが膝を突き合わせて語り合う姿が戻ってくることを、切に願っています。
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