自動車産業が「100年に一度」と言われる大変革期を迎えるなか、トヨタ自動車がその命運をかけたソフトウェア開発の総本山をいよいよ本格始動させます。トヨタとデンソー、アイシン精機の3社が共同出資して2018年に設立した「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)」が、2019年12月に東京・日本橋の新オフィスを全面稼働させることになりました。
自動運転の実現には、人工知能(AI)をはじめとする高度なソフトウェア技術が欠かせません。この拠点は、米国のシリコンバレーで培われた最先端のAI研究を、実際のクルマという形ある製品に落とし込むための重要な架け橋となります。最大1200人を収容可能なこの巨大な開発拠点は、日本のモノづくりと世界のIT技術が融合する、まさに自動運転開発の最前線と言えるでしょう。
「トヨタらしさ」を脱却したシリコンバレー流の職場環境
2019年7月から一部稼働していた日本橋の新オフィスに足を踏み入れると、そこには従来の日本企業のイメージを覆す光景が広がっています。社員からは「トヨタっぽくない」との声が上がるほど先進的で、フロア内には立ち乗り式の電気自動車(EV)で移動できる専用の「道路」まで整備されました。これは、単なる移動手段ではなく、モビリティカンパニーとしての遊び心と機能性を両立させた象徴的な仕掛けです。
2019年12月の全面稼働により、社員食堂やリラックスできる専用設備、さらには大規模な講演会が開催できるホールまで完備されます。人事責任者の米沢賢治氏が「目の前の仕事に没頭できる環境づくり」を強調するように、エンジニアがストレスなくクリエイティビティを発揮できる空間が徹底して追求されました。SNS上でも「こんなオフィスで働いてみたい」といった憧れの声が数多く寄せられています。
特筆すべきは、その多様性に満ちた人材の質です。現在約400名在籍する正社員のうち、新規採用組の約半数は外国人が占めています。驚くべきことに、アマゾンやグーグルといった、いわゆる「GAFA」と呼ばれる世界的大手IT企業からの転職者も続々と合流しているのです。社内の公用語は英語に統一されており、会議に一人でも外国人がいれば英語で議論を進めるという徹底したグローバルスタンダードが貫かれています。
トップタレントを魅了する「直接採用」への挑戦
TRI-ADがこれほどまでに優秀な技術者、いわゆる「トップタレント」を引き寄せるのは、単なる箱モノの豪華さだけが理由ではありません。世界を変えるという明確な企業理念と、それを支える柔軟な働き方が高く評価されているからです。これまでは人材紹介会社経由の採用が中心でしたが、今後はSNSや独自のネットワークを駆使し、企業が直接候補者にアプローチする手法を強めていく方針です。
編集者の視点から見れば、この動きはもはや一企業のオフィス移転という枠組みを超えています。世界中の優秀な頭脳が「日本橋」という歴史ある街に集結し、未来の移動手段を形作っていく姿は非常に刺激的です。IT大手が独占してきたソフトウェア人材の争奪戦において、日本の製造業の象徴であるトヨタが、その文化をアップデートして真っ向から勝利を収めようとしている姿勢には期待しかありません。
自動運転技術の競争は、今この瞬間も激化の一途をたどっています。2019年11月29日現在、月平均で10名もの新しい仲間が加わっているTRI-AD。エントランスのモニターに映し出される新入社員たちの笑顔は、新しいモビリティ社会がすぐそこまで来ていることを予感させます。この日本橋から、世界を驚かせるイノベーションが発信される日は、そう遠くないはずです。
コメント