2019年10月に日本を襲った台風19号は、私たちの想像を絶する水害をもたらしました。阿武隈川や千曲川の流域全体に降り注いだ雨は、上流から下流へと雨域が移動するという最悪のシナリオを辿ったのです。たとえ地点ごとの雨量が記録的でなくとも、流域全体での総量は膨大なものとなり、各地で悲痛な叫びが上がりました。
SNS上では「避難解除後に川が溢れるなんて予想できなかった」「堤防があるから安心だと思っていた」という驚きや不安の声が数多く投稿されています。現代の治水計画は過去の最大雨量を基準にしていますが、今回のパターンは前例のないものでした。中央大学理工学部の山田正教授は、これまでの延長線上ではない抜本的な対策の必要性を説いています。
土地利用の壁を乗り越え、命を守る「コンパクトシティー」へ
現在の河川整備は、河川整備計画に基づいて20年から30年という長いスパンで進められています。しかし、用地買収の難航などにより、計画の6割から7割程度しか完了していないのが現状です。個人の財産権が優先されるあまり、公共の安全を守るための治水工事が足踏みしている状況は、私たちの命を危険にさらしていると言えるでしょう。
この現状を打破するため、山田教授は斬新な提案を行っています。休耕田を集約して堤防用地と交換する手法や、川沿いを「準氾濫地域」に指定し、住居を高台へ集約する「コンパクトシティー」構想です。これは都市機能を一箇所に集め、防災効率を高める街づくりの考え方です。役所の縦割りを排し、法制度を整えることが急務となっています。
「痛み分け」の精神と、オランダに学ぶ100年先を見据えた計画
温暖化の影響で激甚化する豪雨に対し、教授は「痛み分け」という発想を提唱しました。これは、特定の場所で壊滅的な被害が出るのを防ぐため、流域全体で少しずつ水をあふれさせ、人命を守るという減災の知恵です。住民や専門家が膝を突き合わせて議論する「流域協議会」を活性化させ、地域全体でリスクを共有する文化を育むべき時期に来ています。
治水の先進国であるオランダでは、洪水による死亡確率を交通事故より低い「10万分の1以下」に設定し、1万年に1度の高潮にも備えています。日本のように災害直後だけ騒ぐのではなく、50年、100年先を見据えて淡々と投資を続ける姿勢は見習うべきでしょう。これにより、地域の防災を担う建設企業も安定して存続することが可能になります。
情報を正しく読み解く「教育」が、次世代の命を救う鍵
2019年11月14日現在、私たちが最も教訓とすべきは、雨がやんだ後の行動です。上流から下流へ水位のピークが伝わる「洪水波(こうずいは)」は、1日から1日半の時間をかけて移動します。雨がやんでも避難を解いてはいけない場合があるのです。公開されている水位計のデータを正しく理解する知識は、もはや現代人の必須科目と言えます。
私は、治水とは単なる工事ではなく、この国の形を決める「国造り」そのものだと感じます。先人が築いた堤防に感謝しつつ、新しい時代の気候変動に合わせて、私たちのライフスタイルや土地への執着を見直す勇気が必要ではないでしょうか。子供たちが過去の水害を学び、情報を武器に自らの命を守れる未来を、今こそ官民一体となって築くべきです。
コメント