インターネットテレビという新たなジャンルを切り拓いた「AbemaTV(アベマTV)」が、大きな転換点を迎えています。2016年の開局以来、サイバーエージェントは広告収入を柱とした無料放送モデルで急速に規模を拡大してきました。しかし、2019年11月現在、同社はさらなる成長に向けて事業モデルの再構築に乗り出しています。その中核となるのが、これまでの広告依存から脱却し、ユーザーからの課金収入を強化することで赤字幅を縮小させるという攻めの姿勢です。
サイバーエージェントの藤田晋社長は、2019年10月30日に開催された決算会見において、新年度を赤字削減の「ターニングポイント」にすると力強く宣言されました。2019年9月期の連結営業利益は308億円と堅調さを維持していますが、アベマ部門に限れば203億円という大規模な営業赤字を計上しています。この状況を打破するため、今期は赤字を170億〜180億円程度まで抑える計画を立てており、ネットメディア業界全体がその動向を注視しています。
収益構造の変化と5Gがもたらす未来
収益改善の鍵を握るのが「課金収入」の増加です。これまでは無料視聴が主体でしたが、放送中の番組を最初から再生できる「追っかけ再生」や、外出先でもパケット代を気にせず楽しめる「ダウンロード機能」といった有料サービスの利用者が着実に増えています。ネットフリックスなどの定額制動画配信サービスが普及したことで、視聴者の間で「良質なコンテンツには対価を払う」という文化が根付いてきたことも、この戦略を後押ししていると言えるでしょう。
実際に数字を見ても、2019年9月期の下半期には広告収入と課金収入の比率が「半々」に近づくなど、劇的な変化が起きています。SNSでも「アベマの有料機能は痒い所に手が届く」「限定コンテンツのために課金した」といった前向きな反響が見受けられます。景気に左右されやすい広告収入だけでなく、安定したストック型ビジネスである課金収入を積み上げることは、メディア運営における鉄則であり、非常に賢明な判断ではないでしょうか。
さらに、次世代通信規格「5G」の到来が、アベマの背中を強力に押し上げようとしています。5Gとは「第5世代移動通信システム」の略称で、超高速・大容量・低遅延が特徴の通信技術です。サイバーエージェントの予測では、動画広告市場は2024年に5000億円規模にまで膨らむとされており、この波を捉えることこそが、先行投資を続ける最大の目的です。まさに「今は種をまき、未来の巨大市場を独占する」という壮大なスケールの戦略なのです。
圧倒的な集客力と盤石な経営基盤
アベマの強みは、何といっても他を圧倒する「ライブ感」と「独占性」にあります。2019年6月に行われた山里亮太さんと蒼井優さんの結婚会見のようなノーカット生中継は、地上波では真似できないネットメディアならではの武器となりました。こうした取り組みにより、専用アプリのダウンロード数は2019年10月に4500万を突破しています。週間の利用者数が1000万人を超える日も珍しくなく、インフラとしての地位を確立しつつあります。
こうした赤字覚悟の挑戦を支えているのは、同社の既存事業であるネット広告とゲーム事業の圧倒的な稼ぐ力です。「グランブルーファンタジー」などのヒット作を持つゲーム部門が260億円もの利益を叩き出し、アベマという未来への投資を支えています。これは、かつて「アメーバブログ」を日本最大級のメディアに育て上げ、高い利益率を誇るビジネスモデルを構築した成功体験があるからこそ可能な、胆力のある経営判断と言えます。
もちろん、黒字化への道のりは決して平坦ではありません。世界基準の巨大プラットフォームであるアマゾンプライムやネットフリックスとの競争は激化の一途を辿っています。しかし、日本独自の文化やリアルタイム性に特化したアベマの存在感は唯一無二です。5G時代の本格始動を前に、どれだけ熱狂的なファンを囲い込めるか。藤田社長が描く「10年がかりの収益化」という長期戦は、今まさに勝負の第2幕へと突入したのです。
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