赤字を垂れ流す企業は、株式市場で生き残れるのでしょうか。2019年12月2日、創薬ベンチャーのファンペップが予定していた上場を直前で断念しました。理由は、投資家からの需要が想定を下回ったためです。画期的な新薬開発には膨大な研究費が必要であり、赤字が続くのはある意味で宿命といえますが、市場との対話の難しさが浮き彫りになった形です。
SNS上では「将来性があるなら応援したい」という声がある一方で、「数字が伴わない投資はギャンブルだ」という厳しい意見も飛び交っています。この一件は、単なる一企業の失敗ではなく、現在の日本市場が直面している「赤字容認」という新しいフェーズへの生みの苦しみを象徴しているといえるでしょう。
「赤字を掘る」という攻めの経営判断
最近、経営者の間で「赤字を掘る」という言葉が使われています。これは、あえて利益を削ってでも将来の爆発的な成長のために投資を優先することを指します。例えば、世界的な巨人であるアマゾンも、2002年までは赤字続きでした。もし当時の投資家が目先の数字だけで判断して背を向けていたら、現在の莫大なリターンは得られなかったはずです。
しかし、投資家を納得させるには、単なる夢物語ではなく、緻密な数字に裏打ちされた説得力が必要です。「なぜ今、赤字を出してまで投資するのか」という問いに対し、経営者には極めて高い対話能力が求められます。投資家側もまた、本質を見抜く眼力が試される「ガチンコの真剣勝負」が、今の市場では繰り広げられているのです。
東証改革が後押しする「成長への投資」
2019年の新規上場企業のうち、約2割が赤字企業となる見通しです。これは過去10年で最大の比率であり、日本市場の空気が劇的に変化している証拠です。さらに、東京証券取引所の市場再編により新設される「プライム市場」でも、赤字であっても高い成長性を持つ企業の上場を認める方針が固まりつつあります。
かつては「赤字=悪」という認識が一般的でしたが、これからは「未来への投資」として前向きに捉える時代が到来しています。一流企業の定義が「過去の実績」から「将来のポテンシャル」へと移行している点は、日本経済のダイナミズムを取り戻す大きな一歩だと私は確信しています。ただし、これには大きな落とし穴も潜んでいます。
バブルの教訓と「基本」への回帰
赤字を無条件に許容すれば、かつての「ドットコム・バブル」のような悲劇を招きかねません。2000年前後、中身のない企業にマネーが殺到し、後に指数が5分の1に急落した歴史を忘れてはなりません。米国のシェアオフィス大手「ウィーワーク」の苦戦も、過剰な期待が招いた現代の教訓といえるでしょう。
今こそ「Back to Basic(基本に戻れ)」という精神が必要です。ホンダの創業者、本田宗一郎氏は、理念なき行動を「凶器」と呼びました。1954年の経営危機を救ったのは、誠実な情報開示と揺るぎない経営理念でした。赤字であっても、そこに確かな「物語」と「誠実さ」があるかどうかが、企業の命運を分けるのです。
真の価値を見極める「投資の羅針盤」
投資家には、企業の解散価値を示すPBR(株価純資産倍率)などの指標を読み解くだけでなく、経営者の志を見抜く力が求められます。PBRが1倍を割り込んでいる企業が多い現状は、市場がその企業の未来を信じ切れていないことの裏返しでもあります。単に赤字を垂れ流すだけの「ゾンビ企業」に居場所はありません。
健全な赤字を掘る覚悟があるのか、そしてそれを見守る忍耐が投資家にあるのか。経営者と投資家が冷徹かつ情熱的にぶつかり合うことで、初めて株式市場は経済のエンジンとして機能します。2019年12月5日現在のこの熱狂と不安が、次世代のスーパーカブやアマゾンを生む土壌になることを願ってやみません。
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