就職活動に励む学生たちの信頼を揺るがす、極めて深刻な事態が鮮明となりました。2019年12月04日、個人情報保護委員会は、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアから「内定辞退率」のデータスコアを購入していた企業37社に対し、異例の行政指導を行いました。
指導対象にはトヨタ自動車や三菱商事、りそな銀行といった日本を代表する名だたる巨頭が名を連ねています。これまで行政指導で社名が公表されることは稀でしたが、今回は社会的な影響の大きさを鑑み、一種の「社会的制裁」の意味を込めた公表に踏み切った形です。
「同意なきデータ算出」というリクナビ問題の本質
この問題の核心は、学生が知らない間に自分のデータが「内定辞退のしやすさ」という数値に変換され、裏側で売買されていた点にあります。専門用語で言えば、特定の個人の行動を予測する「プロファイリング」に、本人の明確な同意なく個人情報が利用されていました。
当初、同意を得ていなかった学生は約8,000人とされていましたが、2019年12月04日のリクルートキャリアの発表では、実際には2万6,060人にも上ることが判明しました。SNS上では「就活生を商品扱いしている」「企業への不信感しかない」といった怒りの声が渦巻いています。
利用企業側は「合否判定には使っていない」と釈明していますが、その弁明は通用しません。そもそも、利用目的を曖昧にしたまま個人の人生を左右しかねない指標を取得すること自体、データ活用の倫理観を欠いた「情報の乱用」であると厳しく断罪されるべきでしょう。
「使わせない権利」の導入へ、厳格化する個人情報保護法
この事件を重く見た政府は、2020年の個人情報保護法改正に向けて動きを加速させています。新制度では、個人が企業に対して「自分のデータを使わないでほしい」と請求できる「利用停止権(使わせない権利)」の拡充が大きな目玉となる見通しです。
これまで企業は、規約の隅に小さく書かれた同意条項を盾に、データの第三者提供を行ってきました。しかし今後は、事務的な負担やコストが増大したとしても、個人の拒絶意思を最優先する法的義務が課されることになります。これは企業にとって極めて大きな転換点です。
公正取引委員会もまた、データの不当な取得を独占禁止法の対象とする方針を示しており、法の網は確実に狭まっています。もはや「法的にグレーだから大丈夫」という甘い認識は、企業のブランド価値を一瞬で破壊するリスクそのものであると自覚せねばなりません。
編集部が斬る:データ利活用の前に「誠実さ」を
今回の騒動は、企業の「データ至上主義」が招いた必然的な事故だと私は考えます。AIやビッグデータの活用が叫ばれる昨今ですが、そのデータが「感情を持つ人間」の足跡であることを忘れてはなりません。効率を優先し、学生を数値でフィルタリングする姿勢は、本来の採用活動が持つ「対話」を軽視したものです。
今、企業に求められているのは、高度なアルゴリズムではなく、情報の取り扱いにおける圧倒的な「透明性」です。不透明なデータ売買に手を染めた企業が、優秀な人材から選ばれる時代は終わりました。情報の提供者である個人に対し、誠実に目的を語れる企業こそが、真の信頼を勝ち取れるはずです。
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