首都圏の新築マンション市場において、かつての常識が大きく揺らいでいます。2019年12月06日現在、マンションの人気を象徴する指標だった「竣工時完売」の割合が、3年連続で5割を割り込んでいることが明らかになりました。建物が完成するまでに全ての部屋を売り切るというスタイルは、不動産業界において資金回収の効率面から理想とされてきましたが、その風景は今や過去のものになりつつあるようです。
東京湾岸エリアで圧倒的な存在感を放つ「シティタワーズ東京ベイ」は、2019年07月末に完成を迎えた住友不動産の大規模プロジェクトです。1500戸を超えるこのトリプルタワーでは、現時点での販売進捗は約55%に留まっています。しかし、これは決して不人気を意味するわけではありません。同社はあえて数年という長い月日をかけて、じっくりと価値を伝えながら販売を継続していく方針を明確に打ち出しているのです。
一方で、野村不動産が手掛ける「プラウド渋谷本町」は、2020年01月の完成を前にして早くも最後の一戸が成約しました。都心へのアクセスが抜群な好立地ということもあり、8000万円前後の高価格帯でありながら、竣工前に売り切るという伝統的な強さを見せつけています。こうした「在庫を持たずに売り切る」手法と「実物を見せて長期で売る」手法という、対極にある二つの戦略が現在の市場で共存している点は非常に興味深い現象です。
高騰する価格と「売り急がない」大手デベロッパーの余裕
東京カンテイの最新調査によれば、2018年に首都圏で竣工したマンションのうち、完成前に販売を終了した物件は49%でした。1980年以降のデータで最も高かった1986年の97.5%と比較すると、その差は歴然です。かつては完成時に在庫があることは「売れ残り」というネガティブな印象を与えかねませんでしたが、現在はむしろ大手デベロッパーを中心に「完成後も分譲を継続する」スタイルが主流になりつつあります。
この変化の背景には、深刻な販売価格の高騰があります。2018年のデータでは、首都圏の新築マンション価格は平均年収の11倍にまで達しており、東京都内に限っては13.3倍という驚くべき数字を記録しました。年収に対する価格の比率がこれほど高まれば、一般的な共働き世帯であっても都心での購入は容易ではありません。購入層が一部の富裕層やパワーカップル、資産を持つ高齢者に限定されていくのは当然の流れと言えるでしょう。
SNS上では、この状況に対して「もはや普通のサラリーマンには夢のまた夢」「価格が上がりすぎて手が出せない」といった嘆きの声が多く見受けられます。しかし、それでもなお需要が途絶えないため、価格が下がる気配はありません。デベロッパー側も、将来的なさらなる地価上昇を見越し、安易に値下げをして早期完売を狙うよりも、価値を維持しながら高値で売り切るという「戦略的待機」を選択しているのです。
私は、この現状を一種の「健全ではない均衡」だと感じています。資金力のある大手が市場を独占し、価格をコントロールできる状況は、住まいを求める一般市民にとっては厳しい冬の時代を意味します。買い手が「今は買い時ではない」と冷静に判断し、売り手が「安く売る必要はない」と余裕を見せるこの奇妙な膠着状態は、日本の不動産市場が新たなフェーズに突入したことを象徴しているのではないでしょうか。
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