岩手県北上市が今、空前の企業進出ラッシュで熱気を帯びています。中でも注目を集めているのが、半導体メーカー大手であるキオクシアの新工場完成でしょう。街全体が活気にあふれる一方で、思わぬ弊害も生まれてしまっているのです。それが、深刻な「住む場所がない」という住宅不足問題に他なりません。
2019年10月上旬、JR北上駅から約6キロメートル離れた工業団地に、巨大な新工場が姿を現しました。総投資額が1兆円規模にも上るこの施設では、スマートフォンなどに使われる「3次元フラッシュメモリー」が生産される予定です。これはデータを記憶する回路を立体的に積み重ね、大容量化を実現した最先端の記憶媒体を指します。
2020年3月の量産開始時には、およそ900人もの従業員が働く巨大拠点へと成長する見込みとなっています。さらに同社の社長は、将来的な工場の拡張にも意欲的な姿勢を見せているほどです。こうした明るいニュースは地元経済にとって大歓迎である反面、急激な人口流入を受け入れるだけの生活基盤が追いついていないのが実情と言えます。
SNSでも悲鳴!数字が物語る深刻な住まい探し
SNS上でも「北上市に転勤になったけど、本当にアパートの空きがない」「家賃相場が急激に上がっている気がする」といった切実な声が散見されるようになりました。実際に市の担当者も、2019年の春に赴任してきた教員ですら部屋を借りられなかったケースがあったと明かしており、事態の深刻さが浮き彫りになっています。
数字を見てもその切迫度は明らかで、2018年4月から2019年3月にかけての同市の「有効求人倍率」は1.88を記録しました。これは求職者1人に対して約1.9件の求人があることを意味する指標であり、岩手県全体の平均を大きく上回る好調ぶりです。しかしながら、2017年から2021年までの5年間で、およそ1658戸もの賃貸住宅が不足すると予測されています。
行政の大胆な一手と広がる今後の展望
せっかく移住を希望する人々がいても、住まいがなければ他の地域へ流出してしまいます。この危機を回避すべく、北上市は2019年の夏に新たな補助金制度をスタートさせました。8戸以上の賃貸住宅や社員寮を新設する事業者に対し、1戸あたり50万円、最大で1000万円を支給するという思い切った施策に打って出たのです。
この画期的な制度には、2019年の4月から始まる3年間で約3億円の予算が組まれており、合計600戸の供給増加を目指しています。予測される不足分をすべて補うには至りませんが、建設コストを引き下げることで民間投資を誘発する起爆剤としての役割が期待されているのでしょう。行政の素早い対応力には目を見張るものがあります。
さらに驚くべきは、JR北上駅東口の一等地にある約1万平方メートルの市有地を、なんと民間に無償で貸し出すという大胆な決断です。ここでは官民が手を組み、県内外から寄せられたアイデアをもとに大規模な開発プロジェクトが進行しています。最終的に、地元企業を中心としたグループによる魅力的な計画が採用される運びとなりました。
この一大プロジェクトでは、10階建てのマンションや193室を備える9階建てのホテル、そして452台を収容可能な大型立体駐車場などが建設される予定となっています。およそ50億円の事業費が投じられ、2022年の春にはすべての施設が完成する見通しです。街の玄関口がどのように生まれ変わるのか、今から楽しみでなりません。
半世紀にわたって企業誘致を推し進めてきた北上市の努力が、今まさに大きく花開こうとしています。産業の発展と居住環境の整備は、決して切り離すことのできない両輪です。行政が強い危機感を持ち、スピード感あふれる支援策を次々と打ち出している姿勢は、地方創生を目指す全国の自治体にとって素晴らしいモデルケースとなるのではないでしょうか。
コメント