2019年12月05日、フランス全土でマクロン政権が推し進める年金制度改革に反対する大規模な無期限ストライキが幕を開けました。この動きは高齢化社会への対応や職業間の格差を是正するための抜本的な改革を目指すものですが、国民の間では将来の受給額が減少することへの強い不安が渦巻いています。
フランス国鉄(SNCF)やパリ交通公団(RATP)の職員をはじめ、教師や警察官までもがこの一斉行動に参加しました。パリを中心に鉄道や地下鉄のネットワークはほぼ壊滅的な状態に陥っており、日常生活に甚大な影響が出ています。SNS上でも「これこそがフランスの民主主義だ」といった熱烈な支持の声が目立ちます。
実際にフランス国内で実施された世論調査によれば、国民の58%がこのストライキを支持するという驚きの結果も出ています。単なる一部の過激な行動ではなく、マクロン大統領が目指す「一本化」という名の大改革に対して、多くの市民が不信感を募らせている実態が浮き彫りになりました。
複雑怪奇な42の制度を一本化する「ポイント制」の正体とは
現在のフランスには、公務員や自営業、国鉄職員など職種によって42種類もの異なる年金制度が混在しています。これらは「特権的」とも言える有利な給付条件を持つ職種がある一方で、不平等を生む要因とも指摘されてきました。政府はこれらをすべて統合し、共通のルールを適用しようとしています。
今回の改革案で鍵となるのが「ポイント制」と呼ばれる仕組みです。これは支払った保険料をポイントに換算し、退職時に蓄積された合計ポイントに応じて受給額が決まる方式を指します。透明性を高める狙いがありますが、自身の老後の資金がいくらになるのか現時点で試算できない点が、国民の怒りに火をつけました。
マクロン大統領は、2020年3月ごろの法案提出と2025年ごろの施行を視野に入れ、「今やらなければ将来の改革はさらに困難になる」と不退転の決意を示しています。しかし、既得権益を守りたい層だけでなく、将来に不安を抱く若者層までがこの不透明な制度設計に背を向けているのが現状です。
経済損失への懸念と妥協なき政権のジレンマ
今回の事態は、社会保障改革を巡って国が揺れた1995年の大規模スト以来の激しさになると予想されています。当時は約3週間にわたって経済が麻痺し、国の成長率を押し下げる結果となりました。今回も長期化すれば、フランス経済にとって深刻な打撃となることは避けられないでしょう。
個人的な視点から述べれば、平等を重んじるフランスにおいて、職種間の格差を埋める改革自体は避けて通れない課題だと感じます。しかし、具体的な給付額が見えない中で「痛みを伴う改革」を強行するのは、あまりにリスクが高い選択です。国民との対話が形式的に終わっている点は否めません。
マクロン政権は、かつての「黄色いベスト運動」による混乱を受け、対話路線へと舵を切ったはずでした。しかし、財政再建を至上命題とする大統領にとって、ここで安易な妥協をすることは自身の政治生命を左右しかねません。冬のフランスを襲ったこの熱い攻防から、当面は目が離せない状況です。
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