2019年12月18日、名古屋の地で「新しいモノづくり」をテーマにした注目のシンポジウムが開催されました。基調講演に登壇したのは、日本を代表する工作機械メーカー、オークマ株式会社の会長を務める花木義麿氏です。製造業がデジタル変革の荒波に揉まれる今、同社が歩んできた挑戦の歴史と、その根底に流れる熱い「モノづくり哲学」が明かされました。SNS上でも「これぞ日本の現場力」「経営者の懐の深さに感動した」と大きな反響を呼んでいます。
かつての工作機械は、職人が手作業でハンドルを操るアナログな世界でした。そこに革命をもたらしたのが「NC(数値制御)装置」です。これは数値データによって機械の動きを自動制御する技術を指します。1951年にアメリカで誕生したこの技術は、当初は膨大な国家予算を投じた軍事・航空宇宙向けの高価なものでした。しかしオークマの先人たちは、「一般の企業が使える安価で汎用的な装置を作るべきだ」という信念を抱き、独自の開発に突き進んだのです。
不可能を可能にした「怖いもの知らず」の挑戦心
花木氏が1965年4月1日に大隈鉄工所(現・オークマ)へ入社した当時、社内には進取の気風が満ち溢れていました。入社わずか3年目の若手だった花木氏は、人の手による電子回路検査の自動化を提案します。現在の価値で8000万円にも及ぶ巨額予算の申請が、驚くべきことにあっさりと承認されました。こうした「若手の自由な挑戦を見守る」経営層の寛容さが、後に世界をリードする技術を生む土壌となったのは間違いありません。
1972年には、世界に先駆けて独自の「CNC」開発に成功しました。CNCとは、NC装置にコンピューターを組み込み、より高度で柔軟な制御を可能にしたシステムのことです。当時は「工作機械1台ごとに高価なコンピューターを載せるなど正気の沙汰ではない」と周囲から冷ややかな視線を向けられたこともありました。しかし、常識に捉われない「怖いもの知らず」の精神が、工作機械の性能を飛躍的に高め、現在のデジタル製造の礎を築いたのです。
超円高を跳ね返したスマート工場と「現場力」の真髄
2013年5月に竣工したスマート工場「DS1」は、同社の信念を象徴する存在です。当時は1ドル80円を切る極端な円高が日本の輸出産業を苦しめていました。国内生産の危機が叫ばれる中、オークマはロボットによる72時間連続の無人稼働を実現し、圧倒的な生産効率で世界と戦う道を選んだのです。最先端の自動化技術があれば、高コストと言われる日本国内でも十分に国際競争力を維持できることを、彼らは自らの実績で証明してみせました。
ただし、どれほど工場がスマート化しても、最後に差をつけるのは「現場の人間」であると花木氏は力説します。現場での地道な改善活動が伴わなければ、いかに優れた技術もすぐに古びてしまうからです。イノベーションの源泉は、常に現場で汗をかく人々の知恵にあります。自社の殻に閉じこもらず、産学官や他企業との連携を通じて「物おじせずに挑戦する人財」を育てることこそが、中部から世界へ発信するモノづくりの真の鍵となるでしょう。
編集者としての視点ですが、花木氏の話に共通しているのは「未来への投資」に対する圧倒的な覚悟です。若手に数千万円の予算を預ける決断や、逆境での工場建設は、単なる計算だけでは不可能です。今の日本企業に最も求められているのは、こうした「技術への信頼」と「人を信じる力」なのかもしれません。かつての「怖いもの知らず」たちが作った道を、次の世代がどう広げていくのか、日本の製造業の底力に改めて期待が高まる素晴らしい講演でした。
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