フランス映画の伝統ともいえる「愛」と「対話」の妙味が、冬の柔らかな光に包まれたパリを舞台に鮮やかに描き出されました。2019年12月20日に公開初日を迎えたオリヴィエ・アサイヤス監督の最新作『冬時間のパリ』は、まさに大人のための極上のコメディです。かつての名匠エリック・ロメールを彷彿とさせる知的な台詞の応酬が、観客を心地よい物語の世界へと誘ってくれるでしょう。
物語の中心となるのは、時代の荒波に揉まれる二組の夫婦です。ギョーム・カネ演じる出版社の編集者アランは、急速に普及する「電子書籍」というデジタル化の波に翻弄されています。一方、ジュリエット・ビノシュ演じる妻のセレナは、テレビドラマでの役に物足りなさを抱え、日々の生活に小さな隙間を感じている様子です。この夫婦の絶妙な距離感が、物語にリアリティを与えています。
アランの友人である作家のレオナールは、自身の不倫経験をそのまま作品にする「私小説(オートフィクション)」を書き続けています。しかし、近年はSNSでの炎上や批判に晒され、自信を失いかけていました。新作の出版をアランに拒絶されるなど、崖っぷちに立たされている彼ですが、政治家秘書として働く妻ヴァレリーとの関係も、どこか危うい均衡の上に成り立っているようです。
驚くべきは、この四人が織りなす複雑な恋愛模様でしょう。アランは職場のデジタル担当者と情事を楽しんでいますが、セレナも負けじとレオナールと秘密の関係を結んでいます。互いにパートナーの裏切りを薄々と感じつつも、表面的には平然と会話を交わし続ける姿には、フランス流のユーモアとある種のたくましさが宿っています。泥沼化しそうな状況でも、関係が破綻しない展開には舌を巻くはずです。
ネット上では「不倫の話なのに、なぜか爽やかで知的」「フランスの出版業界の裏話がリアルで面白い」といった反響が寄せられています。特に、ジュリエット・ビノシュ本人が出演している映画の中で「ビノシュにオーディオブックの朗読を頼もう」と相談するメタ的なギャグには、思わず笑みがこぼれてしまいます。こうした遊び心こそが、本作を単なるメロドラマではない洗練された芸術へと昇華させているのです。
個人的な見解を述べさせていただくなら、本作は「変化を受け入れる勇気」を問う作品だと感じます。紙からデジタルへ、あるいは移ろいゆく愛の形へ。変化を拒絶するのではなく、ウィットに富んだ会話でそれらを軽やかに乗りこなしていく登場人物たちの姿は、現代を生きる私たちに「もっと肩の力を抜いていい」と教えてくれているかのようです。冬のひととき、劇場でこの小粋な会話劇に浸ってみてはいかがでしょうか。
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