2019年12月19日、英国の政治地図を塗り替える大きな動きがスコットランドで巻き起こりました。スコットランド行政府のニコラ・スタージョン首相は、英国からの独立を問う住民投票を自前で開催できるよう、権限の委譲を英政府に対して正式に要求したのです。同日にはスコットランド議会においても、投票実施に不可欠な関連法案が賛成多数で可決され、独立への機運はこれまでにないほどの実効性を帯びてきました。
そもそもスコットランドは、18世紀初頭にイングランドと統合された歴史を持ちますが、独自の文化やアイデンティティを大切にする誇り高き地域です。人口約544万人を抱えるこの地では、巨大なイングランドへの反発心が根強く、1960年代に始まった北海油田の開発が経済的な自信を後押ししてきました。自分たちの資源を自分たちで管理したいという願いが、半世紀以上にわたり独立のエネルギー源となっているのは間違いありません。
総選挙での圧勝が「民意」の追い風に
スタージョン氏が強気な姿勢を見せる背景には、2019年12月12日に投開票された英総選挙の結果があります。ボリス・ジョンソン首相率いる保守党が英国全土で大勝する一方で、スコットランドではスタージョン氏率いるスコットランド民族党(SNP)が議席の8割以上を独占しました。彼女は「住民がEU離脱を拒絶し、自らの未来を決める権利を支持したことは明白です」と述べ、独立の正当性を力強く訴えています。
ネット上では「スコットランドの選択が尊重されるべきだ」という声が上がる一方、「何度も投票を繰り返すべきではない」といった慎重論も飛び交い、議論はSNSを越えて世界中で注目を集めています。今回の選挙でSNPが掲げた「2020年の住民投票実施」という公約が、多くの有権者から明確な承認を得た形となったため、英政府としても単なる地方の要望として片付けることは極めて困難な状況と言えるでしょう。
ここで鍵となるのが、英国を構成する「連合王国(United Kingdom)」という仕組みです。英国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの地域で構成されていますが、EU離脱を巡る温度差が亀裂を深めています。2016年の国民投票では、スコットランドの62%が「残留」を支持しました。自分たちの意に反してEUを去らねばならない現状が、独立への火種に再び油を注いでいるのです。
「偉大な英国」か、それとも「連合王国の解体」か
過去を振り返れば、2014年にも独立を問う投票が行われましたが、当時は僅差で否決されました。ジョンソン首相は「一度決まった民意は尊重すべきだ」と主張し、新たな投票を認めない方針を崩していません。しかし、最新の世論調査では独立への賛成と反対がほぼ拮抗しており、2021年に予定されるスコットランド議会選挙で独立派が圧勝すれば、ロンドンの英中央政府もいよいよ無視できなくなるという見方が強まっています。
私は、この問題は単なる領土の切り離しではなく、グローバル化する世界における「民主主義の所在」を問う試練だと考えます。EU離脱によって「主権を取り戻す」と宣言したジョンソン政権が、足元のスコットランドが求める主権を否定する矛盾は、今後の政権運営に重くのしかかるでしょう。かつての帝国が抱えるジレンマは、21世紀の今、連合王国解体というスリリングな局面を迎えようとしているのかもしれません。
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