日本で国際会計基準、いわゆる「IFRS」の任意適用が認められてから、2019年12月13日現在でちょうど10年という節目を迎えました。採用企業は200社を超え、時価総額ベースでは市場の約4割を占めるまでになっています。しかし、この「グローバルスタンダード」が、実は現場に少なからぬ混乱を招いていることをご存じでしょうか。
最大の問題は、IFRSが「原則主義」というスタンスを取っている点にあります。これは細かいルールをあえて定めず、経営者の判断に委ねるという自由度の高い考え方です。驚くべきことに、日本公認会計士協会の調査では、主要100社のうち「営業利益」の定義が9種類も存在することが判明しました。これでは、同じ基準を使っている企業同士ですら、単純に数字を比較することができません。
例えば、通信大手のNTTドコモとKDDIを比べると、その違いは一目瞭然です。KDDIは「持分法投資損益」という、関連会社の儲けを営業利益に含めていますが、ドコモは含めていません。このように、本業の稼ぎを示すはずの指標が企業ごとにカスタマイズされている現状は、投資家にとって「物差しが伸び縮みしている」ような不安を感じさせるものでしょう。
航空業界で起きる「座席利用率」の逆転劇
会計基準の違いは、企業の競争力を測る指標にまで影響を及ぼします。象徴的なのが、日本航空(JAL)とANAホールディングスのケースです。2021年3月期の決算に向け、JALはIFRSへの移行を決定しました。これにより、マイルを使って搭乗する旅客の扱いが、両社で大きく分かれることになります。
日本基準のANAはマイル利用客を「無償」として座席利用率に含めませんが、IFRSを採用するJALは「有償」としてカウントします。その結果、実態以上に両社の利用率に差が開いて見える可能性が出てきました。専門用語で「コンバージェンス」と呼ばれる日本基準とIFRSの共通化作業は進んでいますが、細部での「見え方の違い」は未だ根深く残っています。
こうした混乱を受け、基準を策定する国際会計基準審議会(IASB)もようやく重い腰を上げました。営業利益の定義を統一し、企業が独自に設定する「経営者業績指標(MPM)」を別途開示させるルールの策定に乗り出しています。会計の自由度は経営の透明性を高める武器になる一方で、悪用されれば「業績の粉飾」に近い演出を許しかねません。
私は、会計とは「企業の真実を映す鏡」であるべきだと考えます。経営者の哲学を反映できる自由さは尊重すべきですが、それが投資家の判断を狂わせる「迷宮」になっては本末転倒です。2019年現在のこの過渡期において、私たち読み手には、表面的な数字の良し悪しだけでなく、その数字がどのような定義で算出されたのかを見抜く力が求められています。
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