日本の経済成長を足元から支えてきた、歴史ある工場や精巧な機械たち。これらを単なる遺物ではなく、貴重な文化財として楽しむ「産業観光」が今、大きな注目を集めています。この新しい旅のスタイルを長年にわたり提唱し、全国を精力的に駆け巡っているのが、JR東海の初代社長であり現相談役の須田寛氏です。
須田氏がこの概念に着目したきっかけは、2005年の愛知万博の誘致活動にありました。当時、オリンピック開催地として抜群の知名度を誇るカナダのカルガリーに対し、愛知や名古屋の国際的な認知度は決して高くありませんでした。そこで、世界に誇る自動車や陶磁器といった「ものづくり」の基盤を観光資源にするアイデアが生まれたのです。
SNS上でも「工場夜景や見学ツアーってワクワクする」「日本の技術力は最高の観光資源」といった好意的な声が数多く寄せられています。点在する20もの産業博物館をネットワークで結び、面として魅力をアピールする手法は、今や全国の観光モデルとなりました。四日市や瀬戸などの焼き物の産地が連携する取り組みも実を結んでいます。
機械も時代を超えれば文化財に!技術と想いを未来へつなぐ意義
ここで使われる「産業遺産」とは、近代の産業発展に貢献した工場や機械、交通施設などの遺構を指す専門用語です。かつて須田氏が国鉄の管理局長を務めていた時代、退役する車両の保存を本社に提案したものの、費用面から猛反対を受けました。しかし、技術と人々の想いが詰まった車両を諦めきれず、ひっそりと守り抜いたそうです。
その守られた車両たちが、現在の名古屋市にある博物館で輝かしい産業遺産として展示されているエピソードには胸が熱くなります。日本では古い機械を保存する意識が薄れがちですが、時代を経た機械は美術品と同じように文化的な価値を帯びるものです。大量生産品であっても、その時代を代表するモノは守るべきでしょう。
間近に迫る東京オリンピックを控え、訪日外国人観光客、いわゆる「インバウンド」の増加に期待が寄せられています。しかし須田氏は、現在の日本はすでに十分な知名度があり、五輪の勢いだけに頼るべきではないと警鐘を鳴らします。日本独自の強みである「ものづくりの精神」を体験できる産業観光こそが、最高のスパイスになるはずです。
私自身、日本の職人技や最先端技術の現場を巡る旅には、他の観光地にはない深い感動があると感じます。1954年に国鉄に入社し、激動の時代を乗り越えて2020年01月06日現在も現役で提唱を続ける88歳の須田氏の言葉には、重みがあります。日本の産業の歴史に触れる旅へ、あなたも出かけてみませんか。
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