日本のバイオテクノロジー界を長年支え続けてきた「縁の下の力持ち」が、いよいよ時代の中心へと躍り出ます。宝ホールディングス傘下のタカラバイオが、遺伝子や細胞の受託開発製造事業を急加速させているのです。かつては知る人ぞ知る存在だった同社ですが、iPS細胞をはじめとする先進医療の広がりとともに、その価値が世界中から再認識されています。SNSでも「あのタカラバイオがここまで進化していたとは驚き」「日本の医療現場を支える本物の技術力だ」と、大きな期待を寄せる声が相次いでいます。
滋賀県草津市にある同社の開発拠点「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」は、最先端の医療技術を形にするための心臓部です。2014年に開設されたこの施設は、再生医療等製品の製造許可を国内で2番目に取得した実績を持ちます。驚くべきことに、その設備の規模はノーベル賞を受賞した山中伸弥氏が率いる京都大学iPS細胞研究所をも上回る圧倒的なスケールを誇っています。山中氏自身も、医療応用を実現する上で同社との共同研究は非常に強力な推進力になると大絶賛しています。
世界をリードする圧倒的な「運び屋」の技術
タカラバイオが誇る最大の強みは、遺伝子を効率よく細胞内に届ける「ベクター」と呼ばれる媒介技術にあります。これは、狙った遺伝子を確実に細胞へ移植するための「運び屋」のような役割を果たすもので、同社の右に出る者はいないほどの高水準です。さらに、遺伝子を増幅させたりDNAを正確に切断したりする高度な技術も完全に手の内に収めています。これらはすべて、長年にわたる地道な研究の積み重ねによって磨き上げられた唯一無二の財産であり、他社の追随を許さない圧倒的な競争力となっています。
徹底したリスク管理が行われている生産現場の体制も見事というほかありません。現在の再生医療で主流となっている、患者自身の細胞を培養して治療に用いる「自家移植」では、異なる細胞の混入が決して許されません。そのため、同社の施設内には無数の独立した小部屋が用意されており、患者ごとに完全に区別された状態で作業が進められます。空調システムにもダイキン工業の最先端技術が導入されており、外気を完全に遮断しながら内部の空気を漏らさない、驚異的な密閉空間が実現しているのです。
2020年1月下旬には、約70億円を投じた4階建ての新棟が本格的に稼働を開始する予定となっています。これにより、受託開発の処理能力は従来の2.5倍へと劇的に跳ね上がり、ベクターの大量培養も可能になります。患者一人ひとりに最適な医療を提供する「テーラーメード医療」を強力にバックアップする体制が、これで完璧に整うことになるでしょう。企業の技術革新が、実際の医療現場の進化をこれほどまでに直接けん引している姿には、深い感銘を覚えざるを得ません。
失敗の歴史から生まれたマーケット志向
この驚異的な技術のルーツをたどると、実は1950年代のビール事業への挑戦という意外な歴史に行き着きます。当時、果敢に参入したビール販売は大手の厚い壁に阻まれて撤退を余儀なくされましたが、その悔しさをバネに1979年に目をつけたのがバイオ産業でした。当時はまだ国内に先例がなく、周囲からは猛反対を受けたといいます。しかし、ビール造りで培った微生物の扱い方をヒントに、研究試薬という新たな鉱脈を見つけ出しました。この粘り強さこそが、現在の同社を支える最大のDNAなのです。
彼らが何より優れていたのは、現場のニーズを徹底的に製品へ反映させる姿勢でした。どんなに優れた技術であっても、研究者が使いこなせなければ意味がありません。タカラバイオは、誰もが簡単に扱えるキット形式の製品を開発することで、顧客の心を掴んでいきました。1970年代から流行した遺伝子組み換えやゲノム解析の波に見事乗り、当初はわずか4種類だった試薬を今や1万種類にまで拡大させ、世界的な大手へと上り詰めました。市場の声を聴く真摯な姿勢が、大成功をもたらしたと言えます。
2002年には分社化により現在のタカラバイオが誕生し、徹底した独立採算制を導入したことで社員の意識が劇的に変わりました。その結果、2008年には営業黒字化を達成し、2020年3月期には売上高339億円、営業利益62億円を見込むまでに成長しています。営業利益率は過去最高の18%に達する見通しで、20%の大台すら視野に入っています。研究試薬で確実に利益を上げ、その原資を次世代の再生医療へと投資する見事な経営の好循環が、ここに完成しているのです。
悲願である「創薬企業」への脱皮と世界への挑戦
今後の展開として最も注目すべきは、自社で画期的な新薬を生み出す「創薬企業」への進化です。これは創業時からの悲願であり、すでに2016年からは大塚製薬との強力なタッグを結成して共同開発を進めています。がん細胞を自らの免疫力で攻撃する次世代治療薬「CAR-T(カーティー)細胞療法」など、3つの有望な開発ラインが稼働中です。大塚製薬との提携により、すでに開発の進捗に応じた巨額のロイヤルティー収入(権利使用料)の回収も始まっており、ビジネスとしての足場は極めて強固です。
再生医療の世界市場は、2050年までに現在の約38倍となる38兆円規模にまで膨れ上がると予測されています。当然、イギリスのGSKや富士フイルムといった世界的な巨大製薬企業(メガファーマ)もこの市場を虎視眈々と狙っており、今後の競争が激化することは避けられません。ニッチな試薬市場とは異なり、まさに世界の猛者たちが集う主戦場での戦いが始まります。今後は日本国内だけでなく、海外の有力なパートナーといかに大型の提携を結べるかが、さらなる飛躍の決定打となるはずです。
日本の科学技術力が問われる今、民間企業がこれほどの情熱を持って世界の医療を変えようとしている姿は、私たちに大きな勇気を与えてくれます。単なる黒子にとどまらず、自らが新薬開発の主役として世界へ打って出るタカラバイオの挑戦は、日本の誇りと言っても過言ではありません。40年間の雌伏の時を経て、ついに世界の表舞台へと躍り出た同社が、これからどのような革新的な治療法を私たちに届けてくれるのか、今後の動向から一瞬たりとも目が離せません。
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