欧州全体を揺るがしているEU(欧州連合)離脱問題において、極めて大きな一歩が踏み出されました。国境のあり方を巡って緊迫した状況が続いていた英領北アイルランドで、実に3年ぶりとなる自治政府の再開が2020年01月10日に決定したのです。親英国派と親アイルランド派という、歴史的に激しく対立してきた両陣営が奇跡的な和解を果たしたニュースは、混迷を極める欧州情勢に一筋の光を照らしています。
インターネット上やSNSでも、この劇的な再開に対して「長年の停滞からついに前進した」「これで流血の歴史に逆戻りするリスクが減る」といった安堵の声が多数寄せられました。その一方で「選挙対策の野合に過ぎないのでは」という冷ややかな視線も集まっており、世論の関心の高さが伺えます。当面の間は地域の安定が保たれる見込みですが、今回の決定はこれからの英国の形を大きく変える可能性を秘めているでしょう。
そもそも北アイルランド自治政府とは、地域の住民が独自の政策を決定するために作られた臨時の統治機関です。英国への帰属を求めるプロテスタント系住民と、隣国アイルランドとの統一を願うカトリック系住民が、お互いに平等の権限を持って運営するルールとなっています。しかし、2017年01月に発生したエネルギー政策の意見対立を発端として両派の関係は完全に破綻し、政府としての機能を失っていました。
EU離脱の懸案事項だった国境問題と暴動の影
この自治政府の機能停止に、さらなる追い打ちをかけたのがEU離脱問題です。かつて激しい紛争があったこの地域では、1998年の和平合意によって物理的な国境線(検問所など)を無くすことで平和を維持してきました。しかし英国がEUを去るにあたり、アイルランド島に再び厳しい国境管理が復活するのではないかという懸念が浮上したのです。実際、過激派による痛ましい暴動も発生しており、事態の打開は一刻を争う状況でした。
2020年01月末に予定されているEU離脱に向けた協定案には、この国境問題を解決するための特例的なルールが盛り込まれています。そして、そのルールを将来も継続するかどうかは、北アイルランド議会が定期的に採決を行って判断することになっているのです。つまり、肝心の自治政府や議会が復活したことは、英国全体が混乱なくスムーズにEUから離脱するための最大の好材料になったと言えます。
ここで編集部としての視点を述べさせていただければ、今回の和解は歴史的な快挙であると同時に、極めて綱渡りの政治決着であると感じます。なぜなら、これまで強硬姿勢を崩さなかった親英国派の民主統一党(DUP)が歩み寄った背景には、2019年12月の総選挙で議席を減らしたという明確な「焦り」が見え隠れするからです。選挙での敗北を恐れた政党側の打算が、今回の合意を後押しした側面は否定できません。
さらに見逃せないのは、先の総選挙で史上初めて親アイルランド派の議席数が多数派に転じたという地殻変動です。和解を遂げたシン・フェイン党は、将来的にアイルランドとの南北統一を問う住民投票を公約に掲げています。目先のEU離脱問題はクリアできそうですが、中長期的には北アイルランドが英国から分離独立していくシナリオが現実味を帯びてくるでしょう。この地域の動向から、今後も目が離せそうにありません。
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