経済政策のトレンドはまるで流行服のように移り変わります。過去20年ほどの間に、日本経済を巡ってはリフレ派やシムズ理論といった海外発の経済理論が次々と登場し、論壇を大いに賑わせてきました。そして2019年の令和改元の時期から、SNSやメディアで一躍クローズアップされているのが「MMT(現代貨幣理論)」です。ネット上では「これで借金を気にせず財政出動できる」と期待する声が上がる一方で、「机上の空論だ」と不安視する意見も飛び交い、大きな論争を巻き起こしています。
そもそも異次元の低金利や低インフレの常態化は、世界に先駆けて約30年前のバブル崩壊後の日本が経験した現象でした。当時、アメリカの著名な経済学者たちはこぞって「リフレ派」、つまり中央銀行が世の中のお金を増やせば必ずデフレから脱却できると主張していたのです。国内の学者もこれこそが世界標準のマクロ経済学だと絶賛していましたが、結果はどうでしょうか。お金をいくら刷っても物価が上がらない現実は、今や誰の目にも明らかであり、リフレ派の主張が誤りだったことは証明されています。
ゼロ金利の環境下では、中央銀行による非伝統的な金融政策の効果が限定的であるという厳しい教訓を、世界は十分に学びました。2008年のリーマンショック以降、かつて「マネーを増やせ」と大合唱していたポール・クルーグマン氏やローレンス・サマーズ氏といった大物経済学者たちも、次々とその間違いを認めて宗旨変えを表明しています。金融政策が限界を迎えたのであれば、次に期待されるのは政府による財政政策ですが、ここで大きな壁となるのが国の巨額の財政赤字という現実です。
先進国がこぞって財政健全化という重い課題に頭を悩ませる中、突如として救世主のように現れたのがMMTです。この理論は、自国通貨を発行できる国は財政赤字がどれだけ膨らんでも破綻しない、なぜなら中央銀行がお金を刷って穴埋めすればよいからだ、という極めて大胆な主張を展開します。積極的な財政出動を望む人々にとっては、これ以上ない「福音」と言えるでしょう。しかし、この理論を支持するのは学界の主流から外れた異端派が多く、専門家の評価は完全に割れています。
ここで私は、日本が今まさにMMTへ安易に傾倒することに対して強い危機感を覚えます。なぜなら、この理論は日本特有の決定的なリスクを計算に入れていないからです。政府自身が高い確率で発生すると予測している巨大地震への備えが、完全に抜け落ちています。過去を振り返ると、1923年に発生した関東大震災による物的被害は、当時の国内総生産(GDP)の35%、現在の規模に換算すると約170兆円にものぼる莫大なものでした。
万が一の国難が起きたとき、すでに財政が限界まで膨らんでいては、本当の危機に対応できなくなってしまいます。さらに、1990年代の経験から、無駄な公共投資が持続的な経済成長を生み出さないことはすでに証明済みです。海外から輸入された怪しげな経済理論に振り回され、一喜一憂する時代はもう終わりにしなければなりません。今こそ私たちは他人の意見を鵜呑みにせず、自分たちの頭で日本経済の厳しい現実と未来を真剣に考えるべきでしょう。
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