2020年米大統領選は混迷必至?イアン・ブレマー氏が警告する地政学リスクとアメリカ分断の未来

国際政治の舞台が、かつてない激動の季節を迎えています。アメリカのドナルド・トランプ大統領は、これまでの3年間で国内外の政治常識を次々と塗り替えてしまいました。従来の「右派対左派」という政策論争の構図を、敵か味方かという「我々対彼ら」の泥沼の対立へと変貌させたのです。さらにSNSのツイッターを駆使した前代未聞の情報発信は、大統領としての伝統的なしきたりを根本から破壊しました。それでも国家の健全性が保たれてきたのは、アメリカの民主主義に逆境を跳ね返す強固な統治制度があったからにほかなりません。しかし、本当の試練はこれから始まるのでしょう。

世界的な政治リスク分析機関であるユーラシア・グループの社長、イアン・ブレマー氏は、これからの12カ月間でアメリカ政治の混迷がさらに深まると予想しています。SNS上でも「アメリカの分断はどこまで進むのか」「世界経済への影響が心配だ」といった、行く末を不安視する声が数多く飛び交う状況です。まず直近の焦点となるのは、ウクライナ疑惑を巡る上院の弾劾裁判(だんがいさいばん)でしょう。これは大統領などの不正を追及し、罷免するかどうかを糾弾する法的な手続きです。与党である共和党が過半数を握る上院の構成を考えれば、トランプ氏が無罪を勝ち取る可能性は極めて高いとみられます。

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勝者なき大統領選が生み出す最大の不確実性

真の危機は、弾劾裁判が決着したその後に待ち受けています。2020年11月のアメリカ大統領選挙は、記録的な大接戦になることがほぼ確実視されているからです。ユーラシア・グループは、2020年の世界最大の地政学リスクとして「誰が米国を統治するのか」という重大なテーマを掲げました。地政学リスクとは、特定の地域における政治的、軍事的な緊張が、世界経済や社会に予測不可能な混乱をもたらす脅威を指します。今回の選挙は、どちらの候補が勝利を収めたとしても、国民の約半数がその結果を不当だと拒絶する恐れがあり、国家の正統性が根本から揺らぐ異例の事態を迎えているのです。

もしトランプ氏が弾劾裁判で無罪となれば、野党の民主党支持層は「客観的な事実を無視した政治的打算の産物だ」と猛反発するでしょう。正統性に疑惑の目が向けられたまま選挙戦へと突入し、仮にトランプ氏が再選されたとしても、その勝利には大きな汚点が残ります。さらに懸念されるのは、トランプ氏自身がこの無罪判決を「既存の統治制度や政治規範は自分を縛れない」という免罪符と捉え、さらに強硬な行動に出る可能性です。自らの再選を歓迎する外国勢力を引き込み、選挙への介入を誘発しかねないという専門家の指摘は、決して大げさなものではありません。

ホワイトハウスや上院が外国勢力の介入を防ぐ有効な手立てを講じない姿勢は、批判派にとって格好の攻撃材料となっています。このような不穏な空気の中でトランプ氏が再選されれば、民主党陣営の怒りは爆発するでしょう。彼らは大統領個人への不信感に留まらず、その指導者を生み出した選挙制度そのものが歪んでいるとみなすはずです。一方で、トランプ氏の勝利が保証されているわけでもありません。過去のあらゆる世論調査を見ても、同氏の支持率が50%を超えたことは一度もなく、常に厳しい戦いを強いられています。

法廷闘争への発展と世界に飛び火する混乱

もしトランプ氏が敗北を喫した場合、事態はさらに複雑化する恐れがあります。敗因を外国勢力の陰謀だと主張して責任を転嫁したり、選挙結果そのものを認めなかったりするシナリオが現実味を帯びているからです。そうなれば、民主主義の根幹である大統領選の信頼性は完全に失墜してしまいます。結果として、今回の選挙戦は最終的に連邦最高裁判所での法廷闘争へと持ち込まれる可能性が非常に高いと言えるでしょう。最高裁の司法判断すらも政治的な影響を受け始めていると囁かれる今、激しい闘争を終えた敗者が潔く負けを認める姿は想像しにくいのが現状です。

過去を振り返れば、2000年のブッシュ氏とゴア氏による大統領選でも、フロリダ州の開票を巡って大混乱が起き、次期大統領が決まるまで1カ月以上を要した歴史がありました。当時はゴア氏が「国の連帯のため」と苦渋の決断で敗北を受け入れ、辛うじて社会の崩壊を防いだのです。しかし、当時とは比較にならないほど分断が深まった現代のアメリカにおいて、そのような美しい幕引きを期待するのは極めて困難でしょう。一歩間違えれば、国家を支えてきた強固な民主主義の枠組みそのものが内部から揺らぎかねない、極めて危険な領域に突入しています。

私たちは、このアメリカ国内の混乱が単なる一国の問題に留まらず、地政学的な大津波となって日本を含む世界中に波及するという冷徹な現実を直視しなければなりません。大統領選が大差の決着にならない限り、アメリカ国民の間で不満と不信感が渦巻き続ける状況は続くでしょう。ニクソン元大統領が辞職に追い込まれた1970年代の政治スキャンダル以来となる、極めて脆弱な指導者の誕生を、世界の同盟国は強い不安とともに見つめることになります。国際社会を牽引してきた超大国の迷走と私たちはいつまで付き合わされるのか、世界全体が重い課題を突きつけられています。

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