金融緩和は本当に限界?マイナス金利の誤解を解く「リバーサルレート論」の嘘とこれからの経済対策

「これ以上の金融緩和はもう効果がないのでは?」という、いわゆる金融政策限界論が巷で囁かれています。日銀が進める「マイナス金利」の長期化が銀行の経営を圧迫し、当初掲げた「2%の物価上昇目標」がいまだに達成されていないことが主な原因とされているようです。SNS上でも「これだけ低金利が続いても景気が良くならないなら、もう手詰まりではないか」といった不安の声が目立っています。しかし、本当に金融政策は限界を迎えているのでしょうか。

こうした限界論を支える代表的な学説に、米プリンストン大学のブルネルマイヤー教授が提唱する「リバーサルレート論」があります。リバーサルレートとは、それ以上金利を下げると逆に景気を悪化させてしまう「損益分岐金利」のことです。緩和が長引くと銀行の利益が減り、自己資本が傷つくため、銀行は貸出金利を下げられなくなります。それどころか、収益を確保するために金利を引き上げてしまい、緩和のはずが逆に引き締め効果を生んでしまうという理論です。

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現実の銀行経営はモデルを遥かに超えて進化している

理論上はもっともらしく聞こえるリバーサルレート論ですが、現実の経済はそこまで単純ではありません。この理論は短期的な現象を想定したモデルに過ぎず、銀行や中央銀行が生き残りをかけて行う中長期的な対応が計算に入っていないのです。実際、金利が下がれば銀行はただ手をこまねいているわけではありません。新規採用の抑制や支店の統廃合といった徹底的なコスト削減に乗り出し、証券ビジネスの拡大などで新しい利益の柱を構築します。

中央銀行側の強力なサポートも見逃せません。例えば日銀は、短期から長期までの金利をコントロールして国債市場を安定させる「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」を導入しています。これにより、銀行がある程度の利ざや(貸出金利と預金金利の差)を確保できるように配慮しているのです。結果として、2019年のアメリカの主要銀行の純利益は、2008年のグローバル金融危機前の最高益を40%も上回る見込みであり、リバーサルレートに達している兆候は見られません。

日本国内に目を向けても、銀行の利ざや縮小自体は起きているものの、貸出金利が上昇に転じる気配はありません。むしろ、銀行側の経営努力によって、最重要指標である総資金利ざやは2018年以降に拡大へと転じています。世間では「銀行が潰れる」といった過激なツイートが拡散されることもありますが、データを見る限り、リバーサルレート論は現実の経営感覚や当局の柔軟な政策対応とはかけ離れた、単なる机上の空論にとどまっていると言わざるを得ないでしょう。

新時代の金融政策と「2%物価目標」の真実

グローバル金融危機以降、中央銀行が手にした武器は名目金利の操作だけではありません。長期国債の購入はもちろん、不動産投資信託(REIT)や上場投資信託(ETF)といったリスク資産の買い入れ、さらには今後の政策方針をあらかじめアナウンスして市場をコントロールする「フォワードガイダンス(先行き指針)」など、多様な新手段を駆使して実績を上げてきました。国際決済銀行(BIS)も2019年10月の報告書で、これらの新しい道具が確かな効果を上げていると評価しています。

では、なぜ「2%の物価上昇」が達成できないのでしょうか。その理由は金融政策の不備ではなく、世界的な経済構造の激変にあります。ネット通販の普及や人工知能(AI)による需給調整の効率化、グローバルな供給網の発展によって、安くて良いものが大量に流通する時代になりました。景気が良くなっても物価が上がりにくくなる「フィリップス曲線のフラット化」が起きているため、中央銀行は現在、この2%を「短期の目標」から「長期的な指針」へと位置づけを変更しています。

私たちは「物価が上がらない=政策の失敗」という固定観念を捨てるべきです。今後は政府と日銀が連携し、目標値に柔軟な幅を持たせることも検討すべきでしょう。何より大切なのは、国民が将来の経済に自信を持てるような丁寧な説明です。日銀の幹部たちが記者会見や講演の場を通じて、複雑化した政策の意図をより分かりやすく発信し続けることが、人々の期待を未来志向へと変え、日本経済を着実な成長軌道へと導く真の原動力になるはずです。

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