スマートフォンの画面を見せない日はないほど、私たちの生活に深く浸透したQRコード決済。しかし、その裏舞台では今、生き残りをかけた非常に大きな地殻変動が起きています。これまでお馴染みだった消費者向けのポイント還元合戦から一歩引き、企業の「裏方」として活路を見出すフィンテックスタートアップが急増しているのです。
この大胆な戦略シフトに対して、ネット上やSNSでは「賢い方向転換だ」「一般ユーザー向けよりも、ビジネス用途のほうが安定しそう」といった、好意的な反響が数多く寄せられています。過酷なシェア争いを回避し、独自の技術力で勝負に出る彼らの決断は、多くの人々に驚きと納得感を与えているようです。
QRコード決済の先駆者として知られる「Origami(オリガミ)」は、自社の決済基盤を外部に開放する「オリガミ・ネットワーク」という新サービスを始動させました。これは、他社が独自の「〇〇ペイ」を簡単に構築できる画期的な仕組みです。専門知識や莫大な開発費がない企業でも、手軽にキャッシュレス機能を導入できるようになります。
この仕組みは「BtoC」、つまり「企業と一般消費者との取引」を行う多くの企業から熱い視線を浴びています。オリガミは、決済額に応じた数パーセントの手数料や、アプリ内でのクーポン配信料を収益の柱とするビジネスモデルを構築しました。実は、2019年11月にトヨタ自動車が発表した独自の決済アプリ「トヨタウォレット」にも、同社の技術が惜しみなく投入されているのです。
2012年に創業したオリガミは、日本のQR決済における草分け的な存在として、タクシーの支払いなどで着実にファンを増やしてきました。しかし、巨大資本をバックに持つ大手の参入により、一時は苦戦を強いられます。そこで康井義貴社長は、アメリカン・エキスプレスのような世界的ブランドをモデルに見据え、大手企業との連携によるネットワークの拡大へと舵を切りました。
筆者は、この大転換こそがスタートアップが生き残るための正攻法であると考えます。資本力で劣る新興企業が、莫大な資金が飛び交うポイント還元競争に消耗戦を挑むのは得策ではありません。自社が培ってきた一級品の技術を「プラットフォーム(基盤)」として提供する側へ回ることは、持続可能な成長を実現するための極めて賢明な選択と言えるでしょう。
一方、もう一つの注目株である「Kyash(キャッシュ)」も、企業の社内システムに向けた技術提供を開始しました。同社が展開する「Kyash Direct」は、通常であれば長い開発期間と多額の初期投資が必要となる法人カードを、極めて短期間で発行できる画期的な決済基盤です。
この技術を活用し、クラウドキャストという企業は経費精算に特化した「ステイプルカード」をスタートさせました。管理者が利用限度額を柔軟に設定できるため、社員は面倒な立て替えや都度の精算業務から解放されます。バックオフィス業務の劇的な効率化をもたらすこのシステムは、多くのビジネスパーソンから「事務作業が本当に楽になる」とSNS等でも絶賛されています。
現在の日本の労働基準法では、給与は原則として「現金(通貨)」で支払うルールとなっていますが、厚生労働省の審議会ではこれをデジタル化する規制緩和の議論が進められています。キャッシュの椎野孝弘最高技術責任者は、給与が電子マネーで支給される時代を見据えており、すべての決済が自社のカードだけで完結する未来に大きな期待を寄せています。
ソフトバンク系の「PayPay(ペイペイ)」やNTTドコモの「d払い」といったメガプレイヤーが主導する、現在のキャッシュレス市場。新興勢力がこの荒波を乗り越えるためには、企業向けの「BtoB」ビジネスへ軸足を移し、独自の価値を証明することが不可欠です。彼らが紡ぎ出す新しい決済のカタチが、私たちの働き方や社会の仕組みをどのように変えていくのか、今後の展開から目が離せません。
コメント