キリンHDの「脱・ビール」戦略は吉か凶か?ファンケル出資とクラフトビール買収から見る未来図

ビール業界の巨頭であるキリンホールディングス(HD)が、いま大きな変革の舵を切っています。2019年秋からは化粧品・健康食品大手のファンケルへ出資したほか、アメリカのクラフトビール大手を次々と買収しました。さらに、苦戦していたオーストラリアの飲料事業の売却に踏み切るなど、事業の入れ替えを急ピッチで進めているのです。不採算事業を整理し、新しい成長の種を育てるという明確な計画に基づいた動きと言えます。

今回のオーストラリア事業の売却決定を受け、キリンHDの磯崎功典社長は「市場に対する約束を果たせた」と胸をなでおろしました。それもそのはず、同事業は2019年1月から3月期に571億円もの巨額の減損損失を計上した、経営上の大きな頭痛の種だったからです。SNS上でも「これほどの大きな決断をスピーディーに行うのは驚きだ」「お荷物事業を切り離せたのはプラスに働くのではないか」といった、好意的な意見が目立っています。

その一方で、高付加価値なアメリカのクラフトビール大手を傘下に収めた戦略も注目に値するでしょう。大ヒット中の第三のビール「本麒麟」や、定番の「一番搾り」に加え、利益率の高い高価格帯のラインナップが補強されました。専門家からも「盤石な商品構成が完成した」と評価する声が上がっています。ネットでは「クラフトビール市場は伸びているから楽しみ」「本麒麟の勢いに乗って海外でも勝負してほしい」と期待が寄せられました。

しかし、同社が描く中長期のシナリオにおいて、主役はビールではありません。世界保健機関(WHO)が2018年に発表した報告書では、飲酒による死者が世界で年間300万人を超えたと指摘され、酒税増税や広告規制の必要性が叫ばれています。磯崎社長も、いずれアルコールがタバコと同じような厳しい規制対象になるリスクを予見しています。だからこそ、アルコールに頼りすぎないポートフォリオの構築が急務となっているのです。

実際に「脱・ビール」へのシフトは数字にも表れています。2019年12月期の連結事業利益(国際会計基準)の見通しは2363億円ですが、キリンビールの割合は35%です。これに次ぐのが、製薬子会社である協和キリンの23%となっています。骨の病気や白血病に関する画期的な新薬が控えており、高い成長性が期待されているのです。ビール以外の柱がしっかりと育ちつつある現状は、企業の安定性を高める強みになるでしょう。

さらにキリンHDは、2021年12月期までの3年間で約3000億円ものM&A(企業の合併・買収)枠を設定しました。2019年9月24日に行われたファンケルへの出資もこの戦略の一環であり、ヘルスケア分野への本気度が伺えます。しかし、株式市場の評価は現時点ではいまひとつと言わざるを得ません。株価の伸び率は2018年末比で7%高にとどまり、海外ビール会社を買収して実直に拡大する競合アサヒの19%高に遅れをとっています。

分かりやすい拡大路線を歩むアサヒに対し、キリンの戦略は投資家にやや複雑に映るようです。協和キリンへの出資比率は約54%、ファンケルへの出資も3割ほどで、完全にコントロールしているとは言えません。もし株式公開買い付け(TOB)などで支配力を強めるとなれば、今度は巨額の財務負担がのしかかります。そのため市場関係者からは「短期間で株価が跳ね上がるような戦略ではない」と、冷静に見守る姿勢が示されています。

こうした状況下で、2019年10月にはイギリスの有力投資会社から「医薬・バイオ事業を売却し、本業のビールに集中すべきだ」という真っ向からの提案書も届きました。ネット上でも「多角化はリスク分散になるが、何の会社か分からなくなる」「ビールのキリンを応援したい気持ちもある」と議論が白熱しています。中長期の経営方針を支持する投資家からも、健康事業の具体的な未来図をもっと明確に示してほしいという要望が相次いでいます。

磯崎社長はこれに応える形で、2020年の前半には具体的な説明を行う方針を明らかにしました。投資家が最も注目するグループの資本政策にまで踏み込むかどうかが、今後の株価を左右する大きな焦点になるでしょう。個人的には、目先の利益を追うビール一本足打法よりも、ヘルスケアを巻き込んだキリンの挑戦を応援したいと感じます。市場との対話を通じて、誰もが納得するビジョンが提示されることを切に願っています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました