昭和の演劇界を揺るがしたアングラ演劇の巨匠、唐十郎氏の傑作『少女仮面』が、令和の時代に鮮烈な姿で蘇りました。アングラ演劇とは、1960年代に台頭した小劇場を中心とする前衛的な舞台芸術のことで、商業主義に縛られない実験的な表現が特徴です。本作の演出を手掛けるのは、古典劇にポップな現代の感性を吹き込むことで熱い注目を集める気鋭の演出家、杉原邦生氏となります。この野心的な挑戦に対して、演劇ファンの間では期待の声が数多く寄せられている状況です。
物語の舞台は、1969年の初演時と同じく、アンダーグラウンドの雰囲気が漂う地下喫茶「肉体」となっています。かつての宝塚スターを名乗る喫茶店の経営者が、歌劇団を夢見る少女と激しい劇中劇を繰り広げるという、妄想が膨張していく超現実的な群像劇です。作中には、地下鉄工事の騒音や空襲の記憶、さらには歴史上の伝説的舞台までが複雑に絡み合います。SNS上でも「めくるめく世界観に圧倒される」「異色すぎる設定が癖になる」と、その独特な魅力に翻弄される観客が続出しました。
主役の春日野を演じるのは、実力派俳優の若村麻由美さんです。男装の麗人としての立ち姿は息をのむほど美しく、観客席から突如として登場する演出は、客席に鮮烈な衝撃を与えています。役者とは観客に見られることで初めて存在し、見られなくなれば消滅していくという、役者の宿命を体現するような演技です。私は、彼女が演じる春日野から、時代の荒波に置いていかれた幻のような儚さと、どこか切ない人間味を強く感じずにはいられません。
杉原氏自らがデザインしたセットは、無機質な舞台裏を思わせる空間で、昭和の泥臭さをあえてそぎ落としたスタイリッシュな仕上がりです。劇中で流れる往年の名曲も、硬質で尖ったアレンジに変更されています。生々しい肉体の熱量を重視した唐氏の原点に、あえて言葉の力で切り込んでいく演出は、非常に刺激的で知性を刺激するアプローチだと私は高く評価しています。難解な連想も増していますが、それこそが現代演劇が挑むべき価値ある挑戦でしょう。
この人間存在の儚さを浮き彫りにする挑戦的な舞台は、2020年2月9日までシアタートラムにて上演されています。さらに2020年2月中旬には、月船さららさん主演による同戯曲の別公演も控えており、後続世代による表現の模索は止まりません。演劇界の新たな扉を開くこの瞬間を、ぜひ劇場で目撃してください。
コメント