2017年04月に大和証券の会長を退任して最高顧問に就任した私は、同年の07月に日本証券業協会の24代目会長という大役を引き受けました。これまで一企業で培ってきた経験を、今度は業界全体のために還元する好機だと確信したのです。そこで私は、日本の未来を見据えた2つの巨大な改革の柱を打ち立てました。
まず1つ目の挑戦が、少額投資非課税制度である「NISA(ニーサ)」の普及促進です。これは投資で得た利益に税金がかからない画期的な仕組みを指します。日本では古くから「貯蓄から投資へ」と叫ばれながらも、依然として約900兆円もの個人資産が銀行口座に眠ったままになっています。日本人の堅実さは美徳ですが、投資は危険だという先入観が根強いのも事実でしょう。
SNS上でも「将来への不安はあるけれど投資は怖い」という若者のリアルな声が日々溢れています。だからこそ私は、若い世代に積み立てNISAを通じて確かな成功体験を積んでほしいと願うのです。資産を複数の商品に分散し、10年や20年といった長期的な視点でコツコツと積み立てれば、着実に資産を育めることを知っていただきたいと考えます。
老後資金への関心が高まる現代において、時間を味方にできる若者には、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」やNISAが最適な選択肢となるはずです。ネット上では「今から始めれば老後も安心できそう」といった前向きな意見が増えており、確かな手応えを感じています。若者が未来を諦めないための強力な武器として、これらの制度を社会に定着させたいところです。
そして、もう1つの重要な柱が「SDGs(持続可能な開発目標)」への取り組みです。これは2015年の国連サミットで採択されたもので、2030年までに貧困や環境問題など17の課題を世界中で解決しようという国際的な指針を意味します。数年前の日本では知名度が低く、恥ずかしながら私自身も最初は全容を把握していませんでした。
知人からの助言をきっかけに学びを深める中で、これは証券業界全体で本気で向き合うべきテーマだと直感したのです。かつて大和証券では、環境保護を目的とした「グリーンボンド(環境債)」や、病気治療を支援する「ワクチンボンド」など、社会貢献に直結する金融商品を先駆けて手がけていました。金融ビジネスの力で社会を良くすることは十分に可能です。
協会内に専門の推進室を立ち上げ、女性トップを据えて改革を加速させました。全国の証券会社にある1400以上の店頭に古本回収ボックスを置き、寄付を募る試みには、初年度から多額の善意が集まっています。SNSでも「身近な店舗から社会貢献に参加できるのが素敵」と話題になり、業界のイメージ刷新に繋がっている様子が窺えます。
さらに2019年04月には上場証券会社に対し、株主優待の選択肢にSDGs関連への寄付を組み込んでもらいました。また、証券会社が保有する株式の優待品として受け取るお米などを、NPO法人に寄付する新たな仕組みも2020年04月から始動します。金融の仕組みを少し変えるだけで、社会に温かい循環を生み出せるのは非常に素晴らしい試みだと支持します。
私が証券の世界に身を置いて2020年で50年が経ちますが、ここまで歩んでこられたのは素晴らしい仲間や最愛の家族に支えられたおかげです。日本の証券市場には、まだまだ大きな成長の余地が残されていると断言できます。これからも自分にできることを、地道に、かつ愚直に積み重ねていく所存です。
激動の戦後から高度経済成長、バブルとその崩壊、そして長いデフレを駆け抜けてきた同世代の皆様は、常に大切な存在のために命懸けで働いてこられました。その奮闘の歴史と熱い想いが、この連載を通して少しでも次世代に伝わったのであれば、これ以上の喜びはありません。
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