リテール部門、いわゆる個人向け営業の現場で奮闘するメンバーに、真の仕事の喜びを感じてほしいという強い願いがありました。当時副社長を務めていた前哲夫さんからの、営業のあるべき理想の姿を構築しようという熱いアドバイスも私の背中を押してくれたのです。私たちは二人三脚で、従来の常識を覆す大胆な組織変革へと舵を切る決意を固めました。まず着手したのは、これまで絶対的な基準とされてきた評価制度の抜本的な見直しです。
かつての証券業界では、顧客から得る売買手数料の金額だけが評価のすべてでした。その弊害として、手数料を稼ぐ目的で顧客に保有商品を売却させ、新たな商品を購入させる回転売買(不要な取引を何度も繰り返させる悪質な営業手法)が日常化していたのです。私はこうした古い体質を断ち切るため、手続きを極力制限しました。代わりに、純粋に新しい資金を同社に預けてくれた社員を高く評価する仕組みへとシフトさせたのです。
利益率の低い商品であっても、新規の資金獲得を正当に評価する新制度に対し、長年会社を支えてきたベテランの男性社員からは一斉に不満が噴出しました。会議の席で支店長から「利益と純増のどちらが最優先なのか」と詰め寄られる場面もありましたが、私は「顧客の資産を拡大させてこそ本物の利益が生まれる」と言い切りました。実績を残した社員には破格の賞与や社長賞で報いることで、現場のモチベーションは劇的に変化したのです。
女性の秘められた営業力が爆発!古い社内ルールの撤廃
この評価軸の転換は、思わぬ嬉しい変化をもたらしました。地道にお客様との信頼関係を築き、資金を預かってくる営業スタイルにおいて、女性社員たちが驚くほどの才能を発揮し始めたのです。それまで男女で明確に分けられていた部署の垣根を取り払い、営業課を一つに統合しました。「女性単独での営業活動を禁じる」といった、時代錯誤な暗黙の了解もすべて撤廃したところ、小規模な店舗を中心に女性の躍進が目立つようになりました。
能力のある女性を積極的に管理職へと引き上げると同時に、個人の生活環境に合わせて転勤を行わなくてもキャリアアップが目指せる「エリア総合職」の制度を強力に推し進めました。ネット上のSNSでも、この大和証券の取り組みに対して「先見の明がありすぎる」「時代を先取りした素晴らしい決断」といった、先進的な姿勢を称賛する声が数多く寄せられており、現代のビジネスパーソンからも大きな注目を集めている模様です。
さらに私が改革の柱として打ち出したのが、夜19時までの完全退社という厳しいルールでした。当初は経営陣からも無理だという否定的な意見が相変わらず飛び交いましたが、私自身には絶対に達成できるという揺るぎない確信があったのです。かつての営業マンは、夕方以降にお客様へ電話をかけるという口実のもと、何をするでもなくだらだらとオフィスに残り続け、中には深夜まで居座ることが常態化しているケースも見られました。
「どうせ続かない」を打ち砕いたトップの執念
翌朝の7時には出社する過酷な生活では、当然ながら体力が続くはずもありません。昼間に喫茶店で仮眠をとるなど、1日のうちで数時間の無駄が生じていたのです。19時退社の命令を下した直後は、多くの支店が様子見を決め込み、20時頃まで営業を続けていました。「社長の一時的な思いつきだろう」と高を括っていたのです。そこで私は、ルールを破る支店長に対して人事異動の可能性を厳しく示唆する対策を講じました。
この果断な処置の効果は絶大で、噂は一瞬にして全国の店舗へ伝わり、翌日からすべての拠点で19時退社が徹底されるようになったのです。現在、世間ではワークライフバランスという言葉が盛んに叫ばれていますが、私自身の信念は「ワーク・ハード・ライフ・ハード」、つまり仕事も私生活も全力で限界まで突き詰めることです。この大和証券流の働き方改革は、世間のトレンドよりも10年以上前から実践してきたという自負があります。
トップダウンの改革には痛みが伴いますが、明確な評価基準の提示と、退職時間の徹底のような強制力を持たせた仕組みづくりこそが、組織の体質を根本から変えるのだと痛感します。形だけの「ノー残業デー」に終わらせず、人事権をもって本気度を示した鈴木氏の経営手腕は、現代のあらゆる企業が見習うべき本物のリーダーシップと言えるでしょう。
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