スイスの美しい雪山を舞台に、世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」が2020年1月24日に50回目の節目を迎えて閉幕しました。しかし、例年とは異なりアルプスの雪は驚くほど少なく、地球温暖化の足音がすぐそこまで迫っていることを誰もが実感する4日間となったのです。ネット上でも「ダボス会議の雪不足自体が、気候変動の深刻さを何よりも雄弁に物語っている」と、開催前から大きな注目が集まっていました。
会議の幕開けは、実に対照的な2人のスピーチによって火花が散る展開となりました。アメリカのトランプ大統領が「市場経済の力と技術革新で課題は乗り越えられる。今は悲観する時ではなく、楽観的になるべきだ」と自らの経済実績をアピールしたのに対し、スウェーデンの若き環境活動家、グレタ・トゥンベリさんは「大人たちは私たちに任せてと言うけれど、結局は何もせず黙っているだけ」と痛烈に批判したのです。
この激しい応酬に対し、SNSでは「グレタさんの怒りは、未来を奪われる若者のリアルな叫びだ」「いや、トランプ氏の言うように経済を止めずに解決する視点も必要だ」と、世代や立場を超えた大論争が巻き起こっています。しかし、会場の経営者たちの心に響いたのは、トランプ氏の楽観論ではなく、明らかに危機感のほうでした。もはや気候変動は「遠い未来のリスク」ではなく、企業の生死を直結する「目の前の脅威」だからです。
予測不能な危機「グリーンスワン」と資本主義の終焉
今、世界の中央銀行が集まる国際決済銀行は、気候変動がもたらす金融危機を「グリーンスワン(緑の白鳥)」と呼び始めています。これは、事前に予測することが極めて難しい大惨事を指す金融用語「ブラックスワン(黒い白鳥)」をもじった言葉です。地球温暖化による自然災害の激甚化はもちろん、脱炭素社会への急激な産業構造の変化によって、従来のビジネスモデルや保有資産の価値が一瞬にして失われてしまう恐怖を表しています。
「私たちが知っていた資本主義は死んだ」。米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ最高経営責任者が放ったこの刺激的な一言は、世界に大きな衝撃を与えました。これまでの企業は、株主の利益だけを最優先する「株主資本主義」のなかで、目先の利益を追い求めてきました。しかし、環境や社会を無視した利己的な経営を続ければ、それは企業の寿命を縮める自殺行為になりかねない時代が到来しているのです。
そこで今回のダボス会議が明確に打ち出したキーワードが「ステークホルダー資本主義」です。これは株主だけでなく、従業員、取引先、地域社会、そして地球環境そのものなど、企業を取り巻くすべての「利害関係者(ステークホルダー)」に対して責任を果たし、長期的な繁栄を目指す新しい経済のあり方です。短期的な利益の誘惑をはねのけ、社会全体の幸福と持続可能性にコミットすることこそが、これからの企業の生存戦略となります。
ネットの反響を見ても「ステークホルダー資本主義への移行は必然だ」「日本企業が昔から大切にしてきた『三方よし』の精神が、ようやく世界基準になった」と、この変化を歓迎する声が目立ちます。一方で「綺麗事だけで終わらせず、具体的な行動や投資を伴わなければ意味がない」という、企業の姿勢を厳しく監視する厳しい意見も多く寄せられており、人々の環境や社会への意識は確実に変わっています。
ミレニアル世代の選択とテクノロジーが切り拓く未来
企業の背中を強く押しているのは、消費者の変化でもあります。サントリーホールディングスの新浪剛史社長が「ミレニアル世代(2000年代初頭に成人を迎えた世代)は、環境に配慮した商品やサービスでなければ見向きもしない」と語るように、次世代の主役たちは、企業の倫理観を厳しく品定めしています。環境を破壊して作られた製品は、どれだけ安くて高品質であっても市場から淘汰される運命にあるのです。
すでに先進的なIT企業は動き出しています。アメリカのマイクロソフトは、2030年までに二酸化炭素の排出量を実質マイナスにするという野心的な目標を掲げました。また、グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者は、従来のコンピューターとは桁違いの計算速度を誇る「量子コンピューター」の可能性に言及し、自然界の精緻なシミュレーションを通じて、気候変動の本質的な解決策を見出せると期待を語りました。
資本主義が生み出した環境危機を、新しい資本主義の枠組みと最先端テクノロジーによって解決する。そんな壮大な挑戦が始まっています。立ち止まる企業への風当たりは強く、会場周辺では日本のメガバンクを名指しで批判する横断幕も掲げられました。投資家や消費者の厳しい視線にさらされるなか、政府や企業が手を取り合い、低炭素社会への投資を新たな経済成長の起爆剤にできるかどうかが試されています。
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