近年、ビジネスの領域においてアートやデザインの視点を取り入れる動きが急速に活発化しています。SNS上でも「これからの経営には感性が必要」「ロジックだけでは限界がある」といった声が数多く見られ、この変革への関心の高さが伺えるでしょう。こうした時代の要請に応えるように、世界最高峰の芸術大学である英国王立美術院のエグゼクティブコースが、いま世界中のビジネスリーダーから熱い視線を集めています。
このプログラムには日本の大手企業である電通や伊藤忠商事などもいち早く参加し、世界規模の課題について熱い議論を交わしているのです。現代はこれまでの常識が次々と覆される「ディスラプティブ(破壊的)」な時代と言えます。このような激動のビジネス環境を生き抜くためには、人間中心の創造的なリーダーシップが不可欠だと、同院のポール・トンプソン副学長は力強く語ってくださいました。
さらに魅力的なのは、米アップル社で最高デザイン責任者を務めたジョナサン・アイブ氏を学長に迎えている点です。まさにアートと産業が融合した象徴的な存在であり、これ以上の適任者はいないでしょう。講義には同社などの第一線で活躍するプロフェッショナルが講師として招かれており、受講生たちは航空会社と共に「100年後の旅のあり方」といった壮大なテーマについて真剣に思考を巡らせています。
激しいグローバル化の陰で、現代社会のシステムには様々な綻びが見え始めています。トンプソン氏は「アートやデザインの本質は人間性そのものである」と指摘されました。ビジネスにおいて株主利益の最大化や企業への貢献はもちろん大切ですが、それだけに囚われてはいけません。クリエイティブな思考を持つリーダーこそが、私たちの新しい生き方や未来の姿を鮮明に描き出せるのです。
目先の短期的な経済利益で動きがちな企業に対し、アートは非常に長いサイクルで物事を捉えます。すでに欧州では、短期的な株主至上主義に疑問を抱く人々が増加傾向にあります。少数の巨大IT企業が人々の生活を支配する現代において、彼らに生き方を委ねるのではなく、自分たちの手で人間性を取り戻す視点を持つべきでしょう。これこそが、これからの経営者に求められる本質的なリテラシーだと私は確信します。
未来の課題を予測する上で、テクノロジーと社会のあり方を多角的に見渡す「アート思考」の解説は欠かせません。アート思考とは、自分自身の内的な衝動や美意識を出発点にして、既存の枠組みにとらわれずにゼロから新しい価値を生み出す思考法のことです。30年後には人口増加に伴う深刻な食料問題に対し、人工肉や遺伝子組み換え食品をいかに適切にデザインするかが重要になるでしょう。
また、医療分野で普及する「人工知能(AI)」が新たな雇用を生み出す一方で、気候変動がもたらす生活環境への打撃も深刻さを増していきます。南半球の人口急増と北半球の高齢化という対照的な問題にどう対処すべきか、これもすべてデザインの領域なのです。予測困難な未来の地球規模の課題に対して、アートの視点からアプローチを試みる姿勢は、まさにこれからの時代に求められる羅針盤と言えます。
英国王立美術院の校舎には歴史ある古い印刷機が置かれる一方で、最先端のAI研究機関の設立も進められています。この「新旧の思想の同居」こそが、イノベーションを生み出す源泉なのです。学生たちは極めて高い起業家精神を備えており、すでに12のスタートアップ企業が誕生しました。2年前には独自のベンチャーキャピタルファンドも立ち上がり、資金面でのバックアップ体制も万全です。
環境負荷を減らすグリーンテックの分野でも、同院発の有望な企業が成果を上げ始めています。1837年の創立以来、王室憲章に掲げられた「産業や製造業への貢献」という精神は、彼らのDNAとして脈々と受け継がれてきたのです。ビジネスとアートは決して相反するものではなく、お互いの知的な資本が手を取り合うことで、初めて時代を牽引する革新的な新事業が生まれるのではないでしょうか。
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