三菱重工業傘下の三菱航空機(愛知県豊山町)が開発を進めている国産初のジェット機、「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の事業戦略が大幅に見直されることが明らかになり、本格的な事業化の時期がさらに遅れる懸念が浮上しています。この見直しの中心は、機体名称を新たに「スペースジェット(SpaceJet)」に改名すること、そして現行の90席モデルに加え、新たに70席級の小型機種を開発し、これを主力機としていくという方針です。この新主力機の納入開始時期は、2022年から2023年頃になる見通しで、度重なる納期延期を繰り返してきたMRJ事業にとって、販売収入を得る時期がさらに遠のく可能性があります。
今回の戦略転換の最大の理由は、世界最大の航空市場である米国での販売を増やすことにあります。米国では、航空会社とパイロット組合の間で結ばれている**「スコープ・クローズ」という労使協定が、90席モデルの導入の障壁となってきました。スコープ・クローズとは、パイロットの雇用を守るため、地域航空会社が運用できる機体の座席数や最大離陸重量に制限を設ける取り決めのことです。現行の90席モデルはこの条件に合わないことが多いのですが、新たに開発する70席級の小型機種であれば、この協定に適合する可能性が高まります。
SNSでは、「また延期か…」「名前を変えても中身が変わらなければ意味がない」「70席モデルは理にかなった判断」といった、厳しい意見と期待が混ざった反響が見られました。400機を超える受注残のうち、過半数が北米向けであるため、新機種への切り替えを要望する顧客は多いと予想されています。三菱航空機は2019年6月にもこの新戦略を正式に発表する予定です。
三菱重工業は、MRJの事業化を2008年に決定して以来、既に6000億円超という巨額の開発資金を投じてきました。同社の小口正範最高財務責任者(CFO)は、2019年5月9日の記者会見で「長期で投資資金の回収を進めたい」と述べ、短期での回収は困難であるとの認識を示しています。世界市場での競争力を高めるための新機種投入は、回収時期をさらに遅らせるというジレンマを三菱重工に突きつけていると言えるでしょう。
現在の90席モデルは、飛行に必要な型式証明(TC)の取得という最終段階に入っており、米ワシントン州のモーゼスレイクを拠点に飛行試験を進めています。TCとは、国土交通省などの航空当局が機体の設計や製造過程が安全基準を満たしていることを証明するもので、これが完了し、引き渡しが始まれば、1機50億円程度とされる現行モデルの販売収入がようやく入ってくる見込みです。
この新しい70席モデルの開発においては、「国産」という看板に固執せず、米国での部品調達や生産も検討し、コストを抑える方針を打ち出しています。これは、ブラジルのエンブラエルなどのライバルに対抗するための、より現実路線への転換だと言えるでしょう。航空機の心臓部となる米プラット・アンド・ホイットニー製のエンジンについては、新機種でも引き続き使用されますが、燃費性能を高めるための仕様変更といった改良が加えられる予定です。
私見として、三菱重工が直面しているのは、「技術の夢」と「ビジネスの現実」**の狭間での苦悩であると考えます。高い性能と低コストを売り文句にするとはいえ、納入時期が遅い新機種に顧客を切り替えさせることは、事業化そのものが後ろ倒しになり、資金回収を遅らせるという痛みを伴います。まずは現行機種の認証を確実に取得し、少しずつ資金を回収しつつ、米市場に適合する新機種を投入することで本格的な収穫期を目指すという、二段構えの戦略は理にかなっています。しかし、今後膨らむであろう新機種の開発費用や、競争激化するリージョナルジェット市場での立ち位置の確立が、今後の大きな課題となるでしょう。国産ジェット機の未来をかけた戦いは、まさに正念場を迎えています。
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