2017年6月17日に静岡県の伊豆半島沖で発生した、米海軍のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」とフィリピン船籍の大型コンテナ船「ACX クリスタル」による衝突事故をご記憶でしょうか。この痛ましい事案について、2019年8月29日に運輸安全委員会が最終的な調査報告書を公表しました。報告書の内容からは、高度なレーダー技術を誇るはずのイージス艦が抱えていた、意外なほど初歩的な運用の不備が浮き彫りになっています。
当時の状況を振り返ると、事故の主因はイージス艦側の「見張り不足」に集約されるようです。報告書によれば、フィッツジェラルド側の当直員は他の船舶の動きに意識を奪われており、背後から接近していたコンテナ船の存在を全く認識していませんでした。海上衝突予防法という海上の交通ルールでは、相手を右側に見る船に回避の義務がありますが、イージス艦側はこの義務があったにもかかわらず、適切な回避行動を一切取らなかったと指摘されています。
SNS上では、この報告を受けて「最強の盾を持つはずのイージス艦が、なぜ目視レベルのミスを犯したのか」といった驚きの声や、「日本の海域でこれほど大きな事故が起きたことへの不安」が再燃しています。ハイテク機器を過信し、基本である人間の目による監視が疎かになっていたことに対し、厳しい批判が集まるのは当然の結果と言えるかもしれません。現場は非常に交通量が多い難所として知られていますが、プロの航海士であればこそ、油断は許されないはずです。
ここで専門用語について少し触れておきましょう。今回焦点となった「回避義務」とは、衝突の恐れがある際に、進路を譲らなければならない船舶が負う法的責任を指します。また「イージス艦」とは、同時に多数の目標を捕捉・攻撃できる強力なレーダー網を備えた軍艦のことです。しかし、どれほど優れたシステムであっても、それを扱う人間が周囲の状況を正しく把握する「状況認識」を欠いてしまえば、宝の持ち腐れになってしまうことが今回の事故で証明されました。
米海軍側もこの事態を重く受け止めており、自軍の調査報告に基づき、人員の配置基準や乗組員の訓練カリキュラムを根本から見直す方針を固めました。現場での疲労蓄積や教育不足が事故の背景にあったことを認めた形です。私は、技術革新が進む現代だからこそ、最終的に判断を下す人間の資質が問われていると感じます。軍艦という特殊な環境下であっても、一般の商船と共存する海の上では、共通のルールを徹底することが安全への唯一の道ではないでしょうか。
今回の報告書公表は、事故から約2年という歳月を経て、ようやく責任の所在が公的に整理された形となります。二度とこのような悲劇を繰り返さないためには、組織的なガバナンスの強化が不可欠でしょう。広大な海の上での安全は、互いの信頼とルール遵守の上に成り立っていることを、改めて肝に銘じる必要があります。最新鋭の艦艇が再び日本の海を安全に航行できるよう、米海軍には抜本的な組織改革の実行を強く期待したいところです。
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