2019年12月16日、イギリスの未来を占う下院総選挙の結果を受け、現地の産業界には安堵と緊張が入り混じった空気が流れています。ジョンソン首相率いる保守党が圧倒的な勝利を収めたことで、最悪のシナリオとされた「合意なき離脱」はひとまず回避される見通しとなりました。SNS上では「ようやく一歩前進だ」というポジティブな声が上がる一方で、「まだ本当の試練はこれからだ」と冷静に先行きを不安視する意見も散見されます。
これまで欧州の経営者たちが最も恐れていたのは、実は離脱そのものだけではありませんでした。野党・労働党のコービン党首が掲げていた、鉄道や郵便の国有化、さらには法人税の引き上げといった急進的な政策、通称「コービン・リスク」の消滅に胸をなでおろす企業も少なくありません。ドイツ機械工業連盟が「霧が少し晴れた」と表現したように、政治的な混乱に一定の終止符が打たれたことは、経済界にとって大きな一歩と言えるでしょう。
忍び寄る「関税復活」の影と自動車産業の苦悩
しかし、楽観視できない状況は依然として続いています。焦点は、2020年末までにイギリスが欧州連合(EU)と「自由貿易協定(FTA)」を締結できるかという点に移行しました。FTAとは、特定の国や地域の間で関税を撤廃し、自由にモノやサービスをやり取りするための約束事です。もしこの交渉が期限内にまとまらなければ、世界貿易機関(WTO)のルールが適用され、今までかからなかった高い関税が突然課されることになってしまいます。
この事態に最も神経を尖らせているのが、海を越えて部品や製品をやり取りする自動車メーカーです。イギリス国内に巨大な生産拠点を持つ日産自動車は、もし自由な貿易が維持できなければ、欧州でのビジネス継続そのものが困難になると警鐘を鳴らしています。すでにホンダが2021年までの工場閉鎖を決定しているように、一度失われた信頼や投資を取り戻すのは容易ではありません。企業は言葉だけでなく、具体的な保証を求めているのです。
私たちの生活に直結する小売業界もまた、危機感を募らせています。関税が復活すれば、スーパーに並ぶ食料品や日用品の価格が高騰するのは避けられません。老舗百貨店の経営破綻が相次ぐなど、冷え込む消費心理にさらなる追い打ちをかける懸念があります。私自身の見解としても、政治の安定は歓迎すべきですが、具体的な通商ルールが決まらない限り、企業が真の意味で「投資」というアクセルを踏むことは難しいのではないかと感じます。
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