かつては安定した職業の代名詞だった地方公務員ですが、実は今、現場では深刻な「ドタキャンドミノ」が発生しています。少子化に加えて世の中の景気が良く、民間企業が積極的に学生を採用しているため、優秀な人材の争奪戦が激しくなっているのです。せっかく厳しい試験を突破して合格したにもかかわらず、本命の企業へ行ってしまう辞退者が後を絶ちません。この危機的な状況に対して、各地の役所は今までの堅いイメージを覆すような、ユニークで必死な工夫を凝らし始めています。
SNS上でもこの話題は注目を集めており、「氷河期世代の時はあんなに倍率が高かったのに、今は売り手市場なんだ」「公務員側がここまで就活生にアピールする時代が来るとは驚き」といった声が上がっています。まさに時代の変化を感じざるを得ません。
恋愛ポスターに女子会も!あの手この手のPR大作戦
こうした人材不足を打破すべく、兵庫県は2019年にまるで恋愛小説のようなキャッチコピーが躍る斬新なポスターを制作し、駅や予備校へ一斉に掲示しました。「好きだから付き合うか、付き合ってから好きになるか」という、若者の心に刺さるメッセージで興味を惹きつける作戦です。さらに、インターネットで発信する紹介動画の制作にも乗り出しています。
また、長野県では2020年1月6日に女性学生をターゲットにしたアットホームな座談会を開催しました。育児休暇の取得状況や結婚後の転勤といった、リアルな働きやすさを現役の女性職員が本音で語ることで、受験者の不安を解消する狙いがあります。
富山県では2020年2月まで事前の申し込み制で庁内を見学できるイベントを実施しているほか、2020年3月15日にはなんと親御さん向けの説明会まで企画しています。家族から本人へ受験を勧めてもらおうという、一歩踏み込んだ戦略です。同県では、かつて10倍を超えていた大卒程度の採用倍率が、2019年度には3.2倍まで落ち込んでおり、危機感が募っています。
「事前の試験対策は不要」という人物重視への大転換
これまでの地方公務員試験といえば、法律や経済といった膨大な専門知識の暗記が必須でした。しかし、そうした「ガリ勉型」の選考基準も見直されています。堺市は2019年度から、言葉の通り自分の強みを表現する「プレゼンテーション型」の試験を導入しました。筆記試験よりも、面接で個人の魅力や人間性を見極める「人物重視の選考」へと舵を切っています。
長野県でも、特別な準備をしていなくても受験できる総合的な筆記試験を2015年度の春から取り入れました。2019年度からは秋にも実施してチャンスを年2回に増やしたところ、志願者が前年度から3割以上も増加したそうです。
しかし、合格者を出しても安心はできません。熊本市が2019年に実施した試験では、80人の合格者のうち12月下旬までに19人が辞退してしまう事態になりました。これにより、生活保護などの大切な福祉業務の増員が見送られるなど、市民生活への影響も出始めています。
受験者が基準に届かなかったり辞退者が続出したりした山形県では、2020年1月19日に異例の二次募集試験を行う状況に追い込まれました。また北海道では、以前は合格者の半数以上が辞退していたため、2019年は他の自治体と日程が重なる「統一試験日」に本番を設定し、なんとか辞退を4割程度に抑え込もうとしています。
合格者を逃さない!現役職員が寄り添う「メンター」制度
神奈川県では2019年8月から、内定辞退を防ぐための特別な相談窓口「ナビゲーター制度」をスタートさせました。これは企業の「メンター(若手社員が新入社員を精神的にサポートする仕組み)」に近いものです。年の近い若手職員を中心に約250人を登録し、合格者の悩みや質問に1対1で答える手厚いケアを行っています。
専門家によると、今の学生は地方でただ安定して働くことよりも、大都市の企業で自分のやりたい仕事に挑戦し、自己成長を遂げたいと考える傾向が強まっているようです。企業の採用意欲が地方にまで波及していることも、自治体の苦戦に拍車をかけています。
国全体のデータを見ても、受験者数は2018年度まで7年連続で減少しており、10年前と比べて2割以上も減っています。その一方で、子育て支援や高齢者福祉、街の治安を守る警察・消防のニーズは高まるばかりで、採用枠自体は増えています。そのため、全体の競争倍率は10倍近くあった時代から、5.8倍へと大幅に低下しました。
編集部としては、この現状は決して悲観すべきことだけではないと考えています。従来の縦割りで堅苦しいお役所仕事のイメージから脱却し、多様な人材を受け入れるチャンスです。2017年度のデータでは、医療や看護の需要が高い岩手県や青森県、さらには浜松市などの政令指定都市で女性の採用比率が劇的に向上しています。住民に寄り添う柔軟な組織へと生まれ変わるためにも、この「採用維新」は各自治体にとって大きな転換期になるはずです。
コメント