障害を持つ方々の高齢化が進む現在、年齢を重ねても安心して長く働き続けられる環境づくりが急務となっています。インターネットの普及によって在宅ワークという選択肢が生まれ、通勤の負担を減らしながら社会とつながる方法が確立されつつあるのです。しかしその一方で、支える親世代の高齢化に伴い、中高年の障害者が社会から孤立してしまう痛ましいケースも表面化してきました。地域社会や支援施設との絆をいかに保ち続けるかが、今後の大きな鍵を握っていると言えます。
栃木県鹿沼市に暮らす65歳の稲見雅道さんは、50代の時に全身へ激しい痛みが走る「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」を発症されました。さらに脳梗塞が重なり左手の手足も不自由になり、現在は車椅子での一人暮らしを余儀なくされています。線維筋痛症とは、身体の広範囲に原因不明の慢性的な激痛が続く中枢神経系の病気です。診断や理解が難しいこの病と闘う稲見さんですが、2017年にある仕事と巡り合ったことで、その生活は劇的な変化を遂げることとなりました。
稲見さんは平日の1日4時間、自宅から車で事業所に通い、パソコンの画面に次々と表示される名刺の画像を文字に起こすデータ入力業務に励んでいます。これはスマートフォン向けの名刺管理アプリのデータを生成する重要な一工程です。年金に加えて毎月5万円から7万円ほどの収入を得られるようになり、大好きな晩酌を楽しむ心の余裕も生まれました。仕事を通じて社会に貢献し、自立した生活の手応えを感じる姿は、多くの人に生きる活力と希望を与えてくれています。
稲見さんが所属する「ミンナのミカタぐるーぷ」の兼子文晴代表は、デジタルデータ処理の利点を強調します。従来の軽作業に比べて作業単価が高く、物流コストも発生しないため、働く当事者の手元に残る実入りが非常に良いのです。このビジネスモデルの成功により、同グループは全国約170カ所の障害者支援事業所へ仕事を再発注するまでに規模を拡大しています。SNS上でも「これぞITを活用した持続可能な福祉の手本」「素晴らしい仕組み」と絶賛する声が相次いでいます。
2016年の調査によると、自宅で暮らす65歳以上の身体障害者の割合は全体の74%に達し、2001年からの15年間で14ポイントも上昇しました。こうした加齢による身体能力の低下を見据え、通勤の障壁を取り払う革新的な試みが活発化しています。愛媛県松山市の就労支援企業「マルク」では、約15人のスタッフが完全在宅でネット記事の執筆やデータ入力業務に従事しています。オンラインでの繋がりを駆使することで、物理的な距離を感じさせない労働環境が実現しているのです。
在宅ワークにおける最大の懸念は、作業中の迷いや孤独感ですが、ここではパソコンのチャットツールを活用してリアルタイムに連携しています。疑問点があればその場ですぐに質問でき、画面の向こうにいる仲間たちと日常的な雑談を交わすことも可能です。「離れていても仲間を感じられるため、労働意欲の維持や向上に直結している」と責任者の伊藤祐介氏はその手応えを語ります。孤立を防ぎつつ、個人のペースを守りながら働けるこのシステムは、今後の標準モデルになるべきだと確信します。
しかし、障害の特性によって就労のハードルには未だに高い壁が存在します。政府統計を分析すると、民間企業における身体障害者や知的障害者の雇用率が約10%であるのに対し、精神障害者はわずか2%にとどまります。精神障害者が国の雇用支援策の対象に組み込まれたのが遅かったことが背景にあります。精神障害は、脳の機能障害やストレスが原因で心身のバランスを崩す疾患であり、気分の浮き沈みや体調の変化が激しいため、一定のペースで成果を出し続けることが難しい側面があります。
神奈川県横須賀市のNPO法人「横須賀つばさの会」の下江秀雄理事長は、症状が突発的に現れる精神障害の特性ゆえに、安定して実力を発揮する難しさがあると指摘します。家族は自らの亡き後、残された子供がどう生きていくかを深く案じています。下江氏によると、親が焦って就労を促してもうまくいかない事例が多いそうです。家族間では将来への焦燥感から意見が衝突しやすいため、まずは専門知識を持つ第三者が介入し、本人の本当の意思をじっくりと傾聴するステップが不可欠でしょう。
さらに深刻なのは、働くことが困難になった高齢の障害者が自宅に引きこもり、地域から完全に孤立してしまう問題です。社会福祉法人海風会の山崎辰夫氏は、福祉サービスや施設を一切利用しないまま親が他界すると、その後にグループホームなどの共同生活へ適応することが極めて困難になると警鐘を鳴らします。高齢の親御さんは問題を家族だけで抱え込まず、手遅れになる前に勇気を出して外部の支援窓口を頼ってほしいと強く願います。社会全体のセーフティネットの構築が急がれます。
小さな工夫が未来を変える!誰でも輝けるユニバーサルデザインの職場環境
暗い話題ばかりではありません。2019年には企業で働く障害者の数が56万人を超え、過去最高を更新しました。では、あらゆる人が個性を活かして快適に働ける職場とは、具体的にどのような場所なのでしょうか。そのヒントを探るため、60年以上にわたり障害者雇用を継続している川崎市のチョーク製造メーカー「日本理化学工業」の取り組みにスポットを当ててみましょう。そこには、言葉や数字の壁を軽々と乗り越えるための素晴らしい知恵が息づいていました。
窓ガラスに滑らかに描いて消せる人気のクレヨン「キットパス」を製造する工場では、天井の照明にユニバーサルデザインが導入されています。ユニバーサルデザインとは、障害の有無や年齢、国籍などを問わず、最初から誰もが利用しやすいように設計された製品や環境のことです。この工場では、照明に「青・赤・緑」のカラーシールが貼られており、青い光の下では検品作業を行い、事務スペースは赤、製品保管エリアの緑は消灯といった具合に、視覚的に直感的な識別ができる工夫が凝らされています。
文字の読み書きや数字の計算能力には個人差がありますが、2019年夏に実施された徹底的な節電対策の際、現場の職員たちがこの色分けアイデアを考案しました。複雑なマニュアルを作らずとも、色の識別だけで全員が正確に節電と業務を遂行できるこの試みは、SNSでも「目から鱗の素晴らしいアイデア」「福祉の枠を超えた経営戦略」と大きな反響を呼んでいます。ほんの少しの視点の転換と工夫次第で、職場のバリアはいくらでも取り除けることを証明しています。
2020年の東京五輪・パラリンピックの開催を控え、日本身体障害者団体連合会の阿部一彦会長は、こうしたユニバーサルデザインの好事例を全国の自治体間で積極的に共有し、街全体のバリアフリー化を加速させるべきだと提言しています。誰もが社会の一員として認められ、安心して働き、天寿を全うできる社会の実現は、決して夢物語ではありません。私たち一人ひとりが関心を持ち、歩み寄ることから、真の共生社会への第一歩が始まるのではないでしょうか。
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