今、世界の投資家が熱い視線を送っているのが、中国の不良債権市場です。著名な米国の資産運用会社オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者であるハワード・マークス氏は、この中国の不良債権購入を「大きな投資機会」と発言し、そのポテンシャルに強い期待感を示しています。実際に中国国内の不良債権は増加傾向にあり、市場規模の拡大が海外勢の積極的な参入を誘う構図となっているのです。
中国の金融監督当局が発表したデータによると、商業銀行が保有する不良債権残高は、2019年3月末の時点で2兆1571億元(日本円で約34兆5千億円)に達しており、これは2018年末と比較して7%近い増加となっています。さらに、返済懸念があるもののまだ不良債権とは区分されていない関注類(かんちゅうるい)と呼ばれる要注意先債権が3兆6千億元強もあり、これらを合計すると日本円換算で90兆円を超える巨大な規模に膨らんでいることがわかります。この「市場」の拡大こそが、海外の機関投資家を惹きつけてやまない最大の理由でしょう。
私見を述べさせていただきますと、これほどの規模の市場が動いている状況は、世界の金融史においても稀有な事態と言えるのではないでしょうか。中国経済の成長鈍化や、シャドーバンキング問題(銀行を介さずに資金を融通する仕組み)の是正などの影響が、この不良債権の増加に結びついていると推察されます。しかし、巨大な潜在的リターンが期待できる一方で、この市場には海外勢が乗り越えるべき、非常に大きな壁が立ちはだかっているのです。
回収実務の「壁」と外資のジレンマ
海外の投資家が直面する最大の難関は、不良債権の回収実務が極めて難しいという点です。不良債権とは、企業などが借りた資金を返済できなくなった際、金融機関に残る債権のことで、通常は担保の処分や法的な手続きを通じて回収を図ります。しかし、中国における回収プロセスは、海外の投資家が慣れ親しんだそれとは大きく異なるようです。中国の倒産法制、すなわち企業が破綻した際の法的な処理の仕組みに詳しい弁護士によると、現地の裁判所を含む当局が、経済的な合理性よりも「社会の安定」を優先する傾向があるため、破綻処理に必要な申請が受理されないケースも珍しくないと言います。
さらに、実務面でも混乱が報告されています。実際に現地で債権回収に携わった会計士は、「差し押さえ(債務者の財産を法的に確保する手続き)に出向いた際、他に債権者がいないはずの設備まで、すでに持ち去られていた」という衝撃的な事例を明かしています。このような不透明で予測が難しい環境では、期待通りの回収を実現するのは困難を極めます。そのため、深〓前海金融資産交易所(しんせんぜんかいきんゆうしさんこうえきじょ)の李嘉〓高級総監が指摘するように、現状、外資系の運用会社は、確実性の高い「担保不動産の売却による回収」を主体とせざるを得ないのが実情なのです。
この回収の難しさが、SNSでも大きな反響を呼んでいます。「90兆円の市場は魅力的だけど、現地のルールが複雑すぎると手を出しにくい」「結局、中国の不良債権ビジネスは担保物件の転売がメインになるのか」といった声が散見され、海外の個人投資家からも、巨大なリターンとカントリーリスクのバランスについて、懸念を示す意見が多く見受けられます。私が思うに、中国当局が今後、海外投資家をより積極的に呼び込むためには、この法的な不透明さや回収実務の煩雑さを解消する取り組みが不可欠となるでしょう。
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