静岡県富士市の北西部に位置する山あいの地で、ものづくりの未来を変える挑戦が続いています。静甲株式会社の富士川工場は、自動車や電動工具に欠かせない「冷間鍛造品(れいかんたんぞうひん)」を製造する拠点です。冷間鍛造とは、金属を熱さず常温のまま強い圧力をかけて形を作る技術を指します。熱を加える手法よりも精緻な形を再現できる強みがある一方で、現場には特有の苦労が絶えませんでした。かつては新入社員が最も配属をためらう場所だったというから驚きです。
2016年04月に就任した鈴木康之工場長に託された任務は、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」というイメージからの完全脱却でした。当時の現場は深夜に及ぶ過酷な労働が当たり前で、設備の老朽化も進んでいたといいます。さらに、指を挟むなどの労働災害が年に数回は発生しており、安全面でも課題を抱えていました。しかし、あれから3年が経過した2019年08月現在、この工場は見違えるような進化を遂げ、従業員が誇りを持って働ける場所へと生まれ変わっています。
SNS上では、こうした地方企業の泥臭い努力に対して「これぞ真の働き方改革」「綺麗なトイレはモチベーションに直結する」といったポジティブな声が広がっています。特に、2017年から実施された深夜勤務の廃止は、従業員の生活リズムを劇的に改善させました。かつては2交代制で夜通し機械が動いていましたが、現在は日中の勤務のみに集約されています。これを実現したのは、勘や経験に頼るのではなく、データの力で現状を把握する「見える化」という手法でした。
効率化の鍵は「見える化」と金型交換のスピードアップ
工場の司令塔は、どのプレス機がどれだけ動いているかを細かく計測し、その情報を全員で共有する仕組みを整えました。無駄を削ぎ落とし、納期を守るために本当に必要な時間だけを稼働させることで、無理のないスケジュール管理が可能になったのです。もちろん、勤務時間を短縮すれば一時的に残業が増える懸念もありましたが、そこでもう一つの秘策が投じられました。それが、製品を成形するための「金型(かながた)」を交換するスピードの改善です。
これまでは平均64分も要していた金型の交換作業ですが、クレーンを効果的に活用するなどの工夫により、50分まで短縮することに成功しました。作業を待たせる時間を減らすため、プレス機が動いている間に次の準備を完璧に整える体制を構築したのです。さらに、以前はホワイトボードで管理していた工程表をデジタル化し、モニターでリアルタイムに確認できるようにしました。こうした細やかな改善の積み重ねが、製造現場にゆとりを生み出しています。
私は、このような「現場の知恵」による改革こそが、日本の製造業を救う鍵になると確信しています。華やかな最新ロボットの導入も素晴らしいですが、今ある設備を工夫して使いこなし、従業員の幸福度を高める姿勢には頭が下がります。2020年03月には各マシンの稼働状況を常時把握できる新システムの導入も予定されており、挑戦は止まりません。人手不足が深刻化する中で、誰もが働きたいと思える環境を作ることは、もはや企業の生存戦略そのものと言えるでしょう。
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