鍵盤の上を縦横無尽に駆け抜ける指先、そして弾けるような笑顔。ジャズピアニストの上原ひろみさんは、今や世界中の音楽ファンを虜にする唯一無二のスターです。2019年10月13日現在も、彼女は年間100都市150公演という驚異的なスケジュールで世界を飛び回っています。SNSでは「彼女のライブを観ると魂が揺さぶられる」「ピアノが歌っているようだ」といった熱狂的な声が絶えず、その圧倒的なライブパフォーマンスは聴く者の心を一瞬で掴んで離しません。
彼女の原点は、1995年12月に東京都内で開催された巨匠チック・コリアさんのコンサートにあります。当時16歳の無名な高校生だった彼女は、ひょんなことからリハーサル中のコリアさんの前で演奏を披露することになりました。その才能を直感した巨匠から「明日一緒に弾こう」と誘われ、まさかの電撃共演を果たしたのです。物怖じせず即興演奏(インプロヴィゼーション)を楽しむ少女の姿は、観客に鮮烈な印象を与えました。
音で語り合う「会話」の深さを求めて
夢のような共演の一方で、当時の彼女は自身の「音楽の語彙力」の乏しさに歯がゆさを感じていました。ジャズにおける即興演奏とは、楽譜に縛られずその場のインスピレーションで音を紡ぎ出す、いわば「音の会話」です。コリアさんの深い懐に助けられた対話を経て、彼女はより真摯にピアノと向き合うことを誓いました。それから24年、2019年9月23日のブルーノート東京での公演では、ハープ奏者との変幻自在な掛け合いを見せ、成熟したアーティストとしての姿を証明しています。
上原さんの音楽人生は、常に「伝えたい」という情熱に突き動かされてきました。静岡県浜松市で育った彼女は、6歳からピアノを始め、指導者の影響でジャズの自由さに目覚めます。中学や高校時代には、合唱祭の練習のためにクラスメイトを自宅に集め、トイレでの発声練習を課すほどの熱血ぶりを発揮しました。「観客の時間をもらう以上、本気でなければならない」という彼女の哲学は、この頃から既に確立されていたのでしょう。
バークリーでの武者修行と世界への飛躍
20歳で渡米し、名門バークリー音楽院に入学した彼女を待っていたのは、多様なジャンルが混ざり合う「魔法の場所」でした。朝から晩までセッションに明け暮れ、新たな音楽の言葉を吸収する日々を送ります。自作のミステリアスな告知ポスターで集客し、1000人の観客を熱狂させたエピソードからは、彼女のプロデューサー的な才能もうかがえます。こうした地道な活動が実を結び、教授の紹介を経て名門レーベルからのデビューを勝ち取ったのです。
2011年には参加作品でグラミー賞を受賞し、ニューヨークのブルーノートでは13年連続公演という快挙を成し遂げました。しかし、これほどの実績を重ねてもなお、彼女は「自分はまだ満足できるレベルにない」と語ります。初めて訪れる街で「ルーキー」として観客と対峙し、一期一会の真剣勝負を挑む。音楽に国境はないと信じ、ピアノを通して世界中と会話を続ける彼女の旅は、これからも熱く続いていくことでしょう。
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