私たちの生活に欠かせないスマートフォン。その画面を通じて、世界中の誰もが瞬時にお金を送り合える未来がすぐそこまで来ています。今、金融界で最も熱い視線を浴びているのが、米フェイスブックが構想するデジタル通貨「リブラ」です。2019年10月には、ウーバーやスポティファイなど名だたる企業21社・団体がスイスで設立総会を開き、正式にその第一歩を踏み出しました。
リブラは、専用のアプリやPCで決済に利用できる「デジタル通貨」です。最大の特徴は、ビットコインでもお馴染みの「ブロックチェーン」技術を採用している点でしょう。これは取引データを分散して記録する仕組みで、データの改ざんが極めて困難なため、非常に高い安全性を誇ります。ネット上の反応を見ても「国際送金の手数料が劇的に安くなるなら早く導入してほしい」と、利便性を期待する声が多く上がっています。
投機対象のビットコインと何が違う?リブラの安定感
「ビットコインと同じようなもの?」と疑問に思う方も多いはずですが、その中身は全くの別物です。ビットコインは価格の変動が激しく、ギャンブル的な投機対象になりがちでした。一方のリブラは、米ドルなどの「法定通貨(国が発行を保証するお金)」を裏付け資産として保有します。複数の主要通貨の価値に連動させることで、価格の安定を図っているのです。まさに「暴落しにくいデジタルマネー」を目指していると言えます。
この安定性があるからこそ、リブラは日々の買い物や海外への送金に真価を発揮します。現状、国境を越えたお金のやり取りには多額の手数料と数日の時間が必要ですが、リブラならメッセージを送るような感覚で24時間365日、即座に完了するでしょう。SNSでは「銀行の役割がなくなるのでは」という驚きと不安が入り混じった意見も散見されます。
世界の中央銀行がリブラを「脅威」と見なす理由
しかし、この壮大な構想に各国の中央銀行は強い警戒感を示しています。フェイスブックの利用者は世界で27億人という驚異的な規模です。もしこれほどの人々がリブラを使い始めれば、一国の人口を遥かに凌駕する巨大な経済圏が誕生してしまいます。国家が管理できないお金が流通しすぎると、景気をコントロールする「金融政策」が効かなくなる恐れがあるのです。
さらに、匿名性の高さが悪用されるリスクも指摘されています。現在の銀行送金は本人確認が厳格ですが、リブラがテロ資金の供与や脱税、麻薬取引などの「マネーロンダリング(犯罪収益の洗浄)」に使われないかという懸念は拭えません。2019年10月の米議会公聴会では、ザッカーバーグCEOに対し、個人情報の保護や犯罪対策を巡って厳しい追及がなされました。
私は、リブラが既存の金融システムに対する強力なアンチテーゼになると考えています。銀行口座を持てない世界の約3割の人々に金融サービスを届けるという大義名分は、非常に説得力があります。しかし、利便性の代償として「誰が、いつ、どこで、何にお金を使ったか」という究極のプライバシーを巨大IT企業に握られることのリスクを、私たちは冷静に評価すべきでしょう。
止まらないデジタル通貨の潮流と日本の未来
リブラへの逆風が強まる一方で、これを機に世界中で通貨のデジタル化が加速しています。中国の中央銀行は「デジタル人民元」の試験発行を間近に控えていると報じられており、欧州でも「デジタルユーロ」の構想が浮上しました。日本銀行は慎重な姿勢を崩していませんが、キャッシュレス化が進む中で、世界的なデジタル通貨の奔流に飲み込まれる日は遠くないはずです。
2020年前半の発行を目指していたリブラですが、各国の規制当局との調整により、その時期は不透明となっています。しかし、もしリブラ自体が頓挫したとしても、国境を越えた安価で自由な決済手段を求めるニーズは消えることはありません。2019年11月18日現在のこの動きは、数十年後に「お金の歴史の転換点」として語り継がれることになるでしょう。
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